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第67話
葉家当主は宇天こそが琉麒の番に相応しいと前々からアピールしており、そのため白露を適当なアルファに噛ませて、城から追放させようとしたらしい。
「ふうん、なるほどね。白露はまだ発情期が来てないって言ってたから、それで薬が効かなかったんじゃない?」
「なんと、欠陥品のオメガであったか」
頭よりも胸が痛んだ。欠陥品という言葉が脳裏にこだまして、どんどん俯いてしまう。
「でもそれじゃ、誰かに頸を噛ませても意味ないってことだよねえ……そうだ、いいことを思いついた!」
「なんだね宇天、聞かせてくれ」
「ボクの求婚者に確か、玄国の華族がいたでしょう? そいつに白露を押しつけちゃえばいいよ、親戚だとか言ってさ」
「ほう? それは面白いな。上手くいけば玄国の貴族に恩が売れ、我が家の益となる。早速手配しよう」
葉家当主が家人に指示をしている間、宇天は腰に手を当てて鼻高々に自画自賛をしていた。
「ふふっ、我ながらいい案。玄国の人達はオメガを人じゃなくて所有物扱いするみたいだから、大事にされるよう言うことを聞いた方がいいよ。ふん、いい気味!」
白露を物のように扱っている点では、目の前の二人も同類だ。聞いているだけで吐き気がしてきた。宇天がこんな人だったなんて。
(いや、恨まれているから当然なのかな)
だとしても、このまま言いなりになる気なんて毛頭ない。かくなる上は術を使うしかないと、大きく息を吸い込み子守歌を歌った。
突然歌い出した白露を見た宇天は、馬鹿にするように鼻を鳴らした。
「あはっ、なにしてるの? 気でも狂っちゃった? ……あれ、おかしいな。なんか急に眠気が」
「んっ? これは……っ! まさか術かっ⁉︎ こいつの口を塞げ!」
命じられた馬獣人は白露の口を塞ごうとしたが、すでに力が入っておらず簡単に逃れることができた。
白露が立ち上がる頃、宇天は眠りこけていた。葉家の主人はふらつき、自らの腕をつねって必死に睡魔と戦っている。
「おのれ、待て……!」
伸ばされた腕を紙一重で避け、出口を求めて走りだす。走りながら必死に歌った。頭痛が酷くなるけれど、そんなことに構っていられない。
がむしゃらに走って、屋敷の外へ向かう。門番も歌で眠らせて、町の中へと飛び出した。ここはまだ皇城から近いらしい、平民街へと足を向ける。
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