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第80話

 次の日の朝、琉麒は白露と離れるのを渋り、軽く促しても離れようとしなかった。  そろそろ執務時間のはずなのに、寝台の上でいつまでも抱きしめられている。 「白露、私たちは番になってまだ間がない。もう少し長く一緒にいたいと思うのだが」 「もうどこにも行かないから、ここでちゃんと待ってるからお仕事してきて。どこかに行く時はちゃんと護衛と付き人を連れていくから……そういえば、宇天達はどうなったんだろう」  琉麒はなにか指示していたようだけど、あの時はそれどころじゃなかったから、話の内容を覚えていない。 「葉家当主は以前から礼儀を欠いた所業を重ね、今回は皇帝の番候補を害そうとした。罰として皇都からの永久追放、財産の没収及び華族の位を二段階下降させた」 「それって厳しいの?」 「相応の罰であろう、あくまでも白露は番候補でしかなかった。忌々しいことだが、その程度の罰で済ませるしかない」 「じゃあ宇天は? どうなったの?」 「玄国の華族に嫁ぐらしい」  目を伏せた琉麒は、憂いを瞳に滲ませた。   「すまないな、やはり君が葉家の子息と交流したいと言った時点で、事情を伝えて止めるべきだった」 「ううん、気にしないで。宇天と友達になりたいって言い出したのは僕だから」  ただでさえ勉強が思うように進んでいなかったから、その上ややこしいお家事情や人間関係を説明されても、右から左に抜けていっただろう。  琉麒は白露の髪を撫で、額にキスをした。 「優しいね、白露。もっと甘えてもいいだろうか」 「僕も琉麒を甘やかしたい……お仕事が終わった後にね」 「白露……」  しょんぼりと眉を下げられて気持ちがぐらっと揺らいだが、なんとか気力を振り絞ってにっこり笑顔を見せた。 「行ってらっしゃい。帰ってくるのを待ってるね」 「……そうだね、帰ったら君はここにいる」 「うん」  トラウマを植えつけてしまったかもしれない……竹筒のような黄金の耳は力なく垂れている。帰ってきたら膝の上に頭を乗せて、髪を撫でてあげようと決めた。  七日ぶりに会った魅音は、いつか聞いた気がする口上を述べる。 「おめでとうございます白露様、今度こそ無事に皇上と契りを結ばれたのですね」 「あ、えっと……そう、だね」  もう何も知らなかった白露ではない。あんなこともそんなこともされて、大いに乱れてしまった自覚があるから、祝われることすら気恥ずかしい。  瞳を逸らしつつもなんとか肯定すると、魅音は声を弾ませた。 「白露様は皇上の正式な番におなり遊ばせましたから、これから忙しくなりますね。お披露目のための作法については、わたくしにも微力ながら力添えをさせてくださいませ」 「うん、頑張るよ」  それからは魅音の言った通り、忙しい毎日を過ごすことになった。秀兎もまた教師としてついてくれて、お披露目に向けて必要な作法を習ったり、華族言葉をとにかく詰め込む様にして覚えていく。  今までの反省を生かして、皇城内の不文律や華族の人間関係は特に念入りに頭に叩き込んだ。

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