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第81話

 白露は最初、お披露目というからには琉麒の番として紹介される祝宴の様な会があるのだろうと考えていたが、どうやら婚礼を兼ねた披露宴を行うらしいと聞いて度肝を抜かれた。  けけけ、結婚⁉︎ なんて最初に聞いた時は叫んでしまったくらいだ。  すぐに、琉麒と結婚……緊張するけど楽しみ、なんて思考が甘い方向に飛んでいってしまったけれど。  とにかくそういう訳で、白露はのんびりする暇を惜しんで披露宴に向けて全力で取り組んだ。  琉麒と会うための時間は彼が無理矢理もぎ取ってきてくれて甘々な時を過ごせたけれど、竹林に向かってのんびりする時間は流石に設けられなかった。 (竹林に行っても、もう宇天には会えないしね)  最後はずいぶん怒っていたけれど、白露が琉麒の番でなければ、また違った未来があったのかもしれない。  宇天は結局、長年夢見た琉麒の番にはなれなかった。どうか彼が新しい番と上手くいきますようにと祈った。  ある日、珍しく琉麒から執務室に来るようにと呼び出され、白露は護衛を引き連れて彼の元へ向かった。  部屋の中からは何やら言い争う声が聞こえてくる。護衛と顔を見合わせつつ部屋の中に声をかけると、すぐに入るようにと返事が返ってきた。 「ちょうどいいところに来てくれた。白露、君の意見を聞かせてほしい」  涼やかな目元を和ませた琉麒の様子はいつも通りだったが、太狼と虎炎は何やら睨み合っている。こんなに本気で言い合いをしているところは見たことがない。  いったい何があったのだろうと彼らの方向に耳を向けた。太狼は身振り手振りを交えながら力説している。 「だから! 絶対パンダの方がいいって! 文官達も賛成していたじゃねえか、なんでそこまで伝統にしがみつくんだよ」 「虎は怖くないが、人情の裏表は怖いものであるからな。のちに天災や飢饉などが起これば、白露様のお立場が悪くなるやもしれぬだろう」  虎は怖くないが人情の裏表は怖いというのは、人には二面性があるから表面だけを見てはいけないという意味だと白露にはわかった。  虎獣人である彼が語るのはなんとなく説得力のある言葉だなあ、なんて呑気な感想を抱く。太狼は負けじと反論した。 「逆も考えられるぜ、皇帝の番効果で経済は潤い、豊作により各地で祭が開かれまくってその時みんなはこう言うんだ。流石吉兆パンダの番様ってな!」 「楽観がすぎる。現実を見据えるべきであろう」 「お前が悲観的すぎるんだよ!」  二人の意見は真っ向から衝突しているようだ。琉麒に視線を戻すと、彼は丁寧に経緯を説明してくれた。 「披露宴の際に着用する礼服の刺繍について意見が割れているんだ。私はパンダ柄がいいと思うのだが」 「ほら! 琉麒もこう言ってるんだからいい加減に観念しろよ」 「しかし、皇帝は麒麟の刺繍を纏うものだというのが、古来からの慣習でな」 「かー! 頭が固えやつだなあ!」 「白露はどちらを着るのがいいと思う。パンダ柄か、麒麟柄か」  琉麒の問いに白露は頭を悩ませた。パンダ柄の礼服を着ている琉麒は正直とても見てみたい。けれど伝統的には麒麟柄を着るべきで、何か悪いことが起これば白露のせいにされるからと虎炎はパンダ柄に反対しているらしい。

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