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第83話

 白露は遠慮がちに頷いた。 「いくつか作りためてあるから、すぐに用意できるけど……本当に竹細工でいいのかな、普通は刺繍とかじゃないの?」 「いいに決まっている。白露の作品は滑らかで美しく、丁寧な職人技が垣間見える。両親もきっと喜ぶだろう」  太狼と虎炎をうかがうと、彼らも頷いてくれた。 「いっそのこと、赤色に塗っちまうのはどうだ? 皇后様がお好きな色ならより気に入られるって」 「わあ、いいねそれ! やってみたい」  色や好みの図案などを聞き、ご両親に気に入られそうな竹カゴを用意できるよう話しあった。 「染色については職人に声をかけておこう。いや、どうせなら今から行こうか?」 「あんたはまだ仕事が残ってるんだ、サボるなよ」 「皇上、つつがなく晴れの日を迎えるために、もう一踏ん張りいたしましょう」 「……そうだね」  どうやら琉麒には、まだまだ仕事が山積みらしい。邪魔にならないうちに退出した方がいいだろう。 (ああでも、ちょっとだけなら触れてもいいかな? きっと琉麒だってお仕事のやる気が上がるよね)  そう考えた白露は、隣に立つ琉麒を遠慮がちに見上げる。 「……ねえ、ちょっと屈んでくれない?」 「なんだ?」  琉麒の耳の側まで背伸びをして、ささやき声で語りかけた。 「今晩は子守唄にする? それとも……僕を味見する?」 「白露を味わいたい」  早口で即答されて、思わず頬が緩んだ。 「僕もそうしたいと思ってたんだ。待ってるから早く帰ってきて。お仕事がんばってね」  ちゅ、と頬に掠めるような口づけを残して、白露は急いで執務室を出た。背後から太狼が琉麒をからかっている声が聞こえて、顔から火を吹きそうになる。 (ひゃー、恥ずかしい……! 他の人がいる前でキスしちゃった)  琉麒のお仕事を応援するために何ができるかと真面目に考えた結果、出てきた答えが応援の抱擁か接吻のどちらかだったため、ちょっと背伸びをして接吻をしてみた。  白露の応援は効果的面で、琉麒はかつてないほどの早さで仕事をこなし、白露の夕餉が終わる前に合流してきて、美味しいご飯と美味しい白露を味わうことができた。 *****  雲一つない晴天が広がる秋一番の吉日に、皇帝琉麒とその番である白露の婚礼の儀及び披露宴は開催される運びとなった。  婚礼に相応しい色である真紅の上衣下裳を身にまとう。麒麟とパンダが美しく刺繍された襟を魅音が整えてくれた。 「よく似合っております、白露様」 「ありがとう、魅音」 「さあ、皇上がお待ちです。参りましょう」  仕上げに婚礼用の豪奢な頭飾りをつける。白露の香りである茉莉花を表現した金色の頭飾りには全面にシャラシャラと音がする硝子レースが垂らされており、白露の顔を半ばまで覆い隠していた。  周囲の景色が硝子に反射してキラキラと光り、まるで心の内に広がる景色のように輝いている。  白露は魅音に手を引かれて婚礼会場へと赴く。足を一本進めるごとに頭飾りが擦れあい、シャラン、シャランと心地よい響きが周囲の空気を揺らした。  足元を見つめながら慎重に歩きたいところだったがグッと我慢をして、華族子息のように顔を上げて顎を引き、背筋を伸ばして優雅に歩く。

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