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第12話 女神の試練と出逢い⑧
「拓海……」
雅成が拓海に手を伸ばすと、拓海はそのまま強く雅成を抱きしめ、雅成の肩に顔を埋めた。
「怖い思いをしていたのに、助けてあげられなくて……ごめん……」
拓海の顔は見えない。
だが体も声も震えている。
嶺塚を助けるため、なんでもすると言いうと、想像すらできなかった試練を与えられた。
しかも愛する人が見ている前で、はしたなく感じていた。
雅成もこのままでは自分が壊れて言ってしまうのではないかと怖かったが、それ以上に拓海は変わっていく愛する人の姿を見せる蹴られ、不安だったのではないだろうか?
そう思うと、雅成は申し訳なさと、自分の不甲斐なさを感じた。
拓海が抱いた不安を取り除いてあげたい。
たとえ見知らぬ男達に体を弄られ、身体が穢れてしまっても、拓海への気持ちは変わることがないと証明したい。
「拓海、顔をあげて」
幼い子をあやすように、自分の肩に顔を埋め震えている拓海の頭を優しく撫でる。
髪にキスをしてた。何度も何度もキスをした。
次第に拓海の震えがおさまり、埋めていた顔をあげた。
「僕は拓海に出逢いて、本当に幸せだよ。拓海……」
今度は目をしっかり見ていった。
今言った言葉が、嘘偽りがないことを伝えたかった。
「僕は義父だけでなく、森本さんや見知らぬ男達に身体を弄ばれ、穢れてしまった。拓海が僕のことを嫌いになっても、離れて言ってしまっても、もう会えなくなってしまったとしても……」
「……」
「これから先、拓海が僕のことを忘れてしまったとしても、僕は絶対に拓海のことを忘れない。忘れられないんだ」
涙が止まっていた拓海の目に、また涙が溜まる。
「雅成を嫌いになることなんて、雅成のそばを離れていくことなんて、忘れることなんてありえない。もう会えなくなるなんて、忘れるなんて想像しただけで、俺の心臓は止まってしまいそうだ」
「……」
「雅成、辛い時に助けに行ってあげられなくて、ごめん。そばにいてやれなくてごめん。情けない自分が忌々しい……」
悔しそうに、拓海はぐっと奥歯を噛み締めた。
「雅成、これだけは知っておいて欲しい。雅成は決して穢れてなんていない。清らかなままだ。どんなことがあっても、美しいままだ。過去にどんなことがあったとしても、これからどんなことがあったとしても、俺のそばにずっといてほしい。ずっと一緒にいて欲しい。愛してるよ。俺だけの雅成」
背中に回されていた拓海の腕に力が入る。
雅成の心がギュッと締め付けられる。
自分は穢れていて、拓海には不釣り合いだと思っていた。
今は一緒にいられるかもしれないが、ふさわしい人が現れたら、離れていかなければならないと思っていた。
でも今拓海は『ずっと一緒にいて欲しい』と言ってくれた。
それは信じていい? 信じていいのか?
二つの気持ちの中で、雅成は揺れていた。
「雅成、ずっと一緒にいてくれる?」
拓海の問いかけに、
「僕は……僕は……」
即答できずいいる。
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