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第22話 動物園 ⑥
「雅成、こんなに分厚いトマトの輪切りだったらサンドイッチの具、トマトしか入れられなくなるぞ」
2センチほどの厚さに切られたトマトの一つを拓海がもちあげると、全部最後まで切られておらずトマトの輪切りが連なっている。
「だってその包丁、切れないから……」
言い訳をする隣で、雅成が使っていた包丁を拓海が手に取り、トマトを薄く輪切りにした。
「どの包丁が切れないって?」
きちんと切られたトマトはしっかりトマトの形を残しているが、雅成の切ったトマトは分厚くつながっている上に、形が潰れている。
拓海のトマト、雅成のトマト。並べられると同じトマトを切ったのか? と思うぐらい出来栄えが違う。
「だって仕方ないでしょ? 僕、僕不器用だし」
言い訳をすると、
「練習しないだけだろ?」
単刀直入に言われると、雅成はぐうの音も出ない。
「だってさ、包丁切れないし」
「研げばいいだろ?」
「調味料とか食材とか、計らないといけないしさ」
「計ったほうが、出来上がりの味が想像しやすいだろ」
「食材買い忘れたりするしさ」
「買うもの、メモっていけばいい」
「ほら、僕が作ったら洗い物たくさんんでるし」
「俺も片付け手伝うし。なんなら俺が全部片付けてもいいぞ」
「だって……だって……」
料理の練習をしない言い訳を考えたが、出てこない。
「もう! 拓海は正論ばっかり言うから、言い訳なくなっちゃったじゃない!」
雅成が膨れると、
「そんな理不尽な……」
拓海がわざと困った顔をする。
「拓海のいじわる」
「もう観念して俺と一緒に料理の練習しよう。どんな料理でも、出来栄えでも、味でも、俺は雅成がつくってくれた料理が一番好きだ」
「うぐ……」
雅成はそう言われてしまうと、何も言い返せない。
拓海と同棲しだした頃、雅成も頑張って勉強をし、何度か料理を作った。
でもできたものは、外は焦げているのに中は生なハンバーグ。ちぎりすぎて粉粉なレタス。生人参の方が美味しいのではないかと思われる人参のソテー。
芯の残った白米。出汁を取り忘れた薄い味噌の味だけの味噌汁。味噌汁に入れようと思ってとっておいた野菜たちは、そのままの状態で残されていた。
散々なものだった。
簡単な話、材料や素材を殺しまくった、食べられたものじゃない、大失料理だった。
しかし、拓海はそんな雅成の手料理を「美味しい、美味しい」と一つ残さず食べてくれた。
拓海はどんなに失敗した料理も美味しいと食べてくれる。
雅成はそれが申し訳なくて、料理をすることをやめた。
それでもたまに、焼いただけのトースト、牛乳、カップのヨーグルト。
朝食に出すと、拓海は一日上機嫌だった。
拓海は年上なのに、そういう可愛いところが、雅成は好きだ。
他にもっと作れるようになったら、拓海は喜んでくれるだろうか?
愛する人の喜ぶことをしたい。
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