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第23話 動物園 ⑦
「たまにだったら、一緒に料理作っても……いいよ」
上から目線な言い方と自分で思うが、幼い頃から働き詰めの母親に甘えたことがなく、雅成はどう甘えていいかわからなかった。
雅成のそんな言い方でも、拓海は「本当にか!?」と大喜びする。
こんなに愛おしい人と出会えたたことに、心の中で感謝しながら、分厚いトマトだけを拓海が買ってきたバケットに挟み、サンドイッチケースに詰め込んだ。
お弁当を持って二人がやって来たのは、親子連れがたくさんいる『ふれあい動物園』
以前雅成が、幼い頃、弁当を持って動物園に行きたかったが、母親の仕事が忙しく、行きたいと言えずに大人になってしまったとこぼしていたのを、拓海は覚えていたのだった。
拓海は動物園では、「どうしてフラミンゴの体の色は赤いのか?」「ダチョウは馬より足が速い」「ペンギンは海に飛び込む時、仲間を蹴り落とす」など、動物豆知識を披露した。
でも雅成は知っている。
拓海のポケットの中には、調べまくった動物豆知識の小さく折り畳まれたメモ用紙はいつまでいることを。
さも『前から知ってましたけど?』と言いたげな姿が愛おしい。
雅成は拓海の姿が愛らしすぎて微笑んでしまいそうになるのを堪え、拓海が自信満々に披露する豆知識を名俳優のように驚いていた。
昼過ぎ、弁当を広げられるような芝生の上、シートを敷いて、シートが飛ばされないようにシートの四角を鞄と弁当が入っていた大きめの保冷バッグ、二人のペットボトルで止めた。
拓海が作ったスペシャルサンドには、アボカドやエビ、生ハム、チーズ、たまご、ポテトサラダに色とりどりの野菜達。
味付けは具材に合わせて変えてあって、どのサンドイッチを食べても新鮮な衝撃を受ける。
目をキラキラさせて美味しそうにサンドイッチを食べる雅成の姿を微笑みながら見ていた拓海だったが、サンドイッチケースの隅に隠されるように入れられていた、雅成が切った分厚いトマトだけのサンドイッチを見つけた時は、雅成以上に目をキラキラさせながら、トマトだけしか具のないサンドにかぶりつき、頬張った。
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