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第26話 余命半年 ②

「実はな、雅成の体のことでどうしても伝えておきたいことがあってな」  嶺塚の声色が優しい。  こういう声色の時は、不吉な予感しかしない。  もし無理難題を言われても、雅成に拒否権はない。  雅成は難題を静かに受け入れようと、ゆっくりと頷いた。 「雅成の命は、もって半年や」 「……え?……」  嶺塚が何を言っているのかわからず、雅成の周りの時間が止まったかのように、思考も動きも止まった。 「雅成の命は、残り半年や」 「…………」  真っ白になった頭の中に、今度は嶺塚の言葉だけが入ってきて、嶺塚の声でこだまのように反復される。 「お前は不治の病にかかっている。はっきりとした治療方法がもわかっていない」  淡々と嶺塚は話す。 「わしは医者ではないが、この病には誰よりも詳しい。わしの言葉など信じられへんかも知れへんけど、今は黙って聞いてほしい」  医師でもない嶺塚の言葉だったが、雅成は直感で嶺塚が言っていることは嘘ではないと感じた。  さっきまで頭の中には、自分の余命を継げる嶺塚の声しか聞こえなかったが、  だが言われていることが嘘ではないと感じ取ってからは、自分でも驚くほど思考がクリアになる。 「わかりました。この病は他の人に伝染しますか?」 「それはない」  雅成はホッと胸を撫で下ろす。  一番近くにいて、愛する人。拓海に自分の病が感染っていないか?   それが一番に頭に浮かんだ。 「僕は何をすればいいですか?」  今ここで、現実を受け入れられず、泣き喚き暴れるのは何の問題解決にならないと、嶺塚の言葉と指示を静かに受け止めようと思った。  雅成の言葉と対応に、嶺塚が驚いたようだったが、今まで見たことがないような穏やかに微笑み、そして何かを懐かしむように遠い目をした。 「今、確立された治療方法や特効薬がない状況や」 「そうですか……。では僕はあとどれぐらいの間、今のように過ごすことができますか?」  自分の命は後半年。  この短い時間の中で、自分は健康な状態で拓海と過ごせるのか?   次に浮かんだことは、これだった。 「あと3ヶ月。3ヶ月を過ぎると徐々に体の中の病の動きが早くなっていって、次第にベッドにいる時間が増えていく。それから何の苦しみもなくその後眠るように息をひきとる。でも安心せい。息をひきとるまで、美貌は今のままや。ただ今と違うのは、心臓が動いとうか止まっとうか、それぐらいしか変化はない」  嶺塚の話を聞いて、雅成は「フフフ」と笑ってしまった。

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