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第27話 余命半年 ③
「どうして僕の心配事がわかったんですか?」
「雅成のことならなんでもわかる」
そう嶺塚は言った後、
「ほんまは『愛する人の前では、いつまでも綺麗な姿でいたい』と言っとった人を知っててな」
続けた。
雅成も嶺塚が知る人と同じ事を思っていた。
できるだけ拓海と一緒にいたい。
でも病に蝕まれ、弱っていく自分を見られたくない。
最後まで拓海の前では、今の姿でいたい。
死期がもうすぐ目の前まできていて、なにかもがいてもよさそうなのに、雅成は一ずつ自分の死を迎え入れようとしている。
「それをお聞きして、安心できました。お義祖父様。もし僕が衰弱していくようなことがあれば、僕を拓海の目の届かないところへ連れて行ってください」
「約束する。でもホンマにそれでええんか?」
「はい。僕はお義祖父様の知人の方と同じ気持ちです」
「そうか……。わしはそんなことより、同じ時間を少しでも長くいたいと思うんやけどな。どんな姿になっても、愛する人はいつまでも、どんな時でも美しいんやけどな……」
嶺塚は視線を逸らし、また遠い目をした時、目尻に何か光り、誰にも気付かれないような所作でそれを拭いた。
嶺塚の体を、微かにふわっと百合のような甘い香が包み込んだような気がした。
「このことを拓海のは知っていますか?」
「……」
返事が返ってこない。
(まさか拓海は知ってる?)
不安で脈拍が速くなる。
「お義祖父、様?」
「ああ、すまんな。懐かしい人を思い出してしもたてたわ。で、なんの話や?」
いつもの嶺塚に戻ると、百合の香もすっと消えた。
「拓海はこの事をしってますか?」
「知らん。拓海の病のことも、雅成のホンマの伴侶が拓海やないこともな」
「え……?」
自分の死期を知らされた時より、雅成は衝撃を受けた。
「女神の伴侶の決める基準があるんやけどな、今までは拓海が雅成の一番の伴侶やった。それが昨日、雅成にとって拓海より最適な伴侶が見つかったんや」
「そ、そんな……」
拓海が伴侶ではない。
嶺塚にそう告げられ、最悪の事態に胸がざわつく。
(拓海が一番 の伴侶じゃない? それは……もしかして……拓海と離れ離れにされてしまう? 拓海じゃない伴侶に……抱かれる、の?)
頭が真っ白になって、背中に冷たいものが流れた。
今まで女神として、色々な男達に身体を弄られた。
しかしそれは拓海がいてくれたから。
拓海の愛を感じながら抱かれ、貫かれていたから我慢できた。
でもこれからは?
これからは誰か知らない人に抱かれる?
震えが止まらない。
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