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第31話 葛藤 ③

「大丈夫」  震える雅成を拓海が抱きしめる。 「そんなに嫌だったら、しなくていい。俺が会長に話をつけてくる」  優しく頭を撫でられ、雅成は拓海が何のことを言っているのかわからない。 「え?」 「怖くて震えるぐらい、3人でするの嫌なんだろ? 俺は雅成が嫌なことは一つだってさせたくない。こんなことを手紙に書いて、直接雅成に渡してくるなんて、どうかしてる」  雅成は拓海が手に持つ手紙を奪い取り、内容を見る。 ー 三日後、雅成と拓海と太客とのステージがある。するしないの決定権は雅成に任せる ー  雅成が受け取った内容とは違うものだ。 (どうして?)  雅成が胸元に手をやると、浴衣の懐の中に紙らしいものが入っている感触がある。  もしかしてと思い手をそっと入れると、確実に紙が手に触れた。  間違いなく、雅成が先ほど受け取った手紙だろう。  ではどうして拓海が違う手紙をもっていたのだろうか?  憶測でしかないが、嶺塚は拓海に手紙のことを知られることもあろうかと予想して、本当の手紙と一緒に偽物の手紙も重ねて忍ばせていたのかもしれない。  どこまでも抜かりのない男だ。 「今すぐ会長に話をつけてくる。だから安心して待ってて」  拓海は雅成の額にキスをし、踵を返す。  余命の件で嶺塚は雅成にどうするかの決定権を託したが、そのことは誰も知らない。  だから他のものにとって嶺塚からの命令は絶対で、反抗しようものなら消されるか、監禁されるか、強制的にさせられるか、その全てをさせられるか。  嶺塚以外に決定権はない。  その嶺塚に拓海は雅成のために、反抗しようとしている。  拓海の思いを理解し、胸が熱く苦しくなった。  でも拓海はいつも言ってくれていた。 ー雅成がしたくないことはしなくていい。俺が話をつけてくるー と。  今まで拓海は自分を犠牲にしてまで、雅成を守ってきてくれた。  じゃあ、今度は自分の番ではないのか?  雅成は思った。  拓海のために、自分ができることは?  拓海を自由にしてあげられることは?  それは多分……。

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