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第43話 すれ違い ②
「でも延命治療をしているうちに、根本的な治療法が見つかるかもしれません。そうなれば、また拓海様との時間が増えていくんですよ。今だけ、今だけ拓海様以外を受け入れることに目をつぶられては……」
森本がなんとか説得していると、
「好きにさせたり」
車椅子の嶺塚が雅成の病室に入ってきた。
「わしらは最善の策だと思って、今まで雅成に無理をさせてきた。でもよ〜考えたら、わしらが最善だと思っておっても、雅成には最善では無いかもしれへん。わし達は対応策を伝えるだけであって、決めるはの雅成や」
「お義祖父様……」
嶺塚と目線を同じになるように、雅成は膝をついた。
「わしらが:沢山(ぎょうさん)対応策を探したる。雅成はその中から自分がしたいことだけすればええ。拓海に病気のことは気づかれへんようにしたる。今までほんまにすまんかったな……」
いつもは威厳があり近寄りがたい嶺塚だが、今日の嶺塚は別人のように穏やかだ。
老人のしわしわの手で頭を撫でれ、今まで我慢していたものが、涙と一緒に流れてきた。
「お義祖父様、僕、死にたく無いです」
「そうか」
「拓海と一緒にいたいです」
「そうやな」
「僕の伴侶は拓海だけです」
「わかった」
「拓海以外は嫌なんです」
「そうか」
「でも、死にたく無いんです」
「そうやな」
「拓海以外受け入れたく無いんです」
「わかっとるよ」
「もし僕が死んだら、拓海はどうなりますか?」
「最愛の人がいなくなるんや。辛いやろな。でもそれは誰にでも訪れることで、拓海だけが特別不幸なわけと違う。どう乗り切るかの答えは、残された者が考えることで雅成が心配することと違う」
「拓海にとって何が一番なんでしょう?」
「そやな、拓海にとって一番は拓海にしかわからんが、わしが思うのは『雅成の幸せ』とちゃうやろか? もしわしが拓海の立場なら、そうやと思うがな」
(俺の幸せ?)
「僕の幸せは、拓海が一人になった時、笑顔で過ごしてもらうことです」
「ほんまにそうか?」
間髪入れずに嶺塚に聞き返された。
拓海に『愛している』を伝えた時から、そうあるべきだと決めていた。
でも決めただけで、心からそう思ったわけではない。
未来の拓海の傍に自分はいない。
想像しただけで、胸が張り裂けそうだ。
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