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第55話 真実 ②
「拓海さん下がって!」
嶺塚の病院に運び込まれ、ストレッチャーで診察室に雅成が運ばれた。
方時も離れられないと拓海が雅成の手を握り、ストレッチャーと共に走る。
拓海の服は雅成を抱きしめていて、血で真っ赤に染まっていた。
(服、汚してしまって……ごめんね……)
雅成の名前を呼び続けている拓海に手を伸ばすと、即座に拓海がその手を止める。
「大丈夫、大丈夫だよ。絶対助ける。絶対助けてみせる!」
まるで自分に言い聞かせるように、拓海が言う。
(うん)
雅成は微笑んだが弱々しく、今にも消えてなくなってしまいそうだ。
「拓海さん! 離れて!」
拓海は両サイドから取り押さえられ、雅成はストレッチャーに乗せられたまま、診察室に入っていった。
雅成は夢を見た。
広い草原の中、一人で歩いていると若い男性が若い銀髪の女性と向き合っていた。
男性に近づいて見ると写真で見たことがある顔。
嶺塚の若い頃と同じ顔をしていた。
女性は……。
(母さん?)
雅成の母親そっくりだったが、違っている。
男性が女性に近づき、見つめながら手を両手でしっかり握った。
『俺が絶対に守って見せる。だから安心して』
そう言うと、女性は微笑み大きく頷くと、男性の頬にキスをして抱きしめる。
「愛してるわ……◯◯……」
男性の耳元で囁く。
あたりに強い風が吹き、雅成が咄嗟に目を閉じた。
目を開けると微かな百合の香を残し、女性の姿は風と共に消えていた。
男性の頬には涙が伝う。
「俺も……愛してるよ……」
さっきまで女性がいた空間を、男性は見つめ続けていた。
ーピッピッピッピッー
規則正しい機械音で雅成は目が覚めた。
「雅成!」
拓海の声がして、声の方を見ると、不安で揺れる拓海の目と視線がぶつかる。
「拓海……」
自分でも驚くほど弱々しい声が出た。
「よかった……よかった……」
拓海の目から溢れた涙が頬を伝い、顎から落ちる前に次の涙が頬を伝っている。
「雅成さん」
拓海の後ろから森本が顔を出す。
いつもはスーツ姿なのに今日は白衣を着ている。
「拓海さんにもお伝えしたのですが、今回の吐血ですがあらゆる検査をした結果、胃が荒れて出血していたからだということでした。何か悪い病気 ではありません」
森本が検査したデータを差し出した。
はじめ拓海は検査結果に納得していなかったが詳しい話を聞き、今は納得している。
「たいしたことではないのですが、すぐに退院するよりも2、3日入院して安静にしてから帰られた方がいいかと思うのですが、いかがされますか?」
ちらりと拓海を見ると、不安そうに雅成を見つめている。
拓海は一緒に家に帰りたいのだろう。
でも雅成の体を心配していて入院した方がいいとも思っていると、雅成は思う。
決断は自分では決められず、雅成の気持ちに委ねていそうだった。
雅成としては本当は拓海と家に帰りたい。
でも余計なことをしない森本があえて「悪い病気」ではないと言ったことも、森本が白衣を着ていたことも、何か伝えたいことがあってのことかも知れないと気になる。
「僕、入院します」
雅成が言うと、拓海は明らかに悲しそうな顔をし、森本はほっと安堵している。
「でも僕も 拓海と離れ離れになるのは嫌です。だから拓海も一緒にいられる部屋にしてください」
森本は一瞬戸惑ったが、
「わかりました。ご用意いたします」
拓海との部屋を承諾した。
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