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第65話 拉致 ②

 用意されていた自家用ジェットに乗せられ、長いフライトでの後、車に乗せられ、見知らぬ国の見知らぬ宮殿に連れて行かれた。  拘束も目隠しもされていなかったので、逃げられたかもしれないが、もし逃げたら森本の身に何か起こるのは確実だった。  そんなことはさせられない。  雅成は素直に従った。  宮殿に着くと、金色で輝く広い廊下に細かな彫刻が施されている太い柱と天井からはシャンデリアが均等に設置されている廊下を進み、 「しばらくここでお待ちください」  一室に通された。  部屋の中は白と金で統一されていて、見ただけでわかる手ざわりが最高級の絨毯が敷き詰められている。  椅子は全て革張り、テーブルは虹色の貝の濃淡でビーナスが描かれその上にガラスが組み込まれ、椅子も、テーブルも脚にまで手彫りの彫刻がされていた。  園庭が見える窓の方を見ると、一人の18歳ぐらいの少女がうずくまって泣いている。 「大丈夫?」  雅成は少女と同じ目線になるようにしゃがみ、声を掛けると背中にそっと触れた。  少女は怯え体がビクンっと跳ねる。 「僕は嶺塚雅成。君の名前は?」 「……」  少女は震えながら雅成のことを見つめだけで、何も答えない。  (言葉がわからないのかな?)  少女は腰までの琥珀色の髪に、瞳はエメラルドグリーンに輝く海のような美しい人。 「僕の名前は雅成。言葉わかる?」  今度はゆっくりはっきり話かけた。 「……ミモザ。私、名前、ミモザ……」  流暢ではないがしっかりとミモザは答える。 「はじめましてミモザ。もしかして君もここに連れてこられたの?」  ミモザは首を縦に振った。 「学校、行く、途中、男、薬、嗅がされて、気がついたら、ここ、いた」  雅成は脅されて、ミモザは薬を嗅がされて誘拐された。  ミモザも雅成も誘拐されたということは、まだ誘拐された人がいるかもしれない。 「連れてこられたのはミモザだけ?」 「わから、ない……」 わけも分からないうちに拉致され、見知らぬ国に連れてこられたミモザ。  闇世界のことも、拉致誘拐が蔓延っていることも知っている雅成でもこれから自分がどうなっていくのか恐ろしいのに、何も知らないミモザはもっと恐ろしいに決まっている。  今自分ができること。  それは未来に希望を持たせてあげること。  希望があれば人は頑張れる。 「怖かったね。でも大丈夫。僕がミモザを守ってあげる」  怯えるミモザを雅成が抱きしめ、背中を摩ってあげると、華奢な体の震えが止まってきた。 「助けて、くれる?」 「うん。でも、みんなの前ではミモザは僕のこと怖がって。話かけたらダメだよ。僕もミモザのことが嫌いなように振る舞うけど、本当は僕はミモザの味方だからね」 「どうし、て?」 「敵を騙すため、僕たちは嘘をつくんだ。どう、できる?」  ミモザは力強く頷く。 「いい子だね。絶対に助けてあげるからね」  その時、部屋をノックする音がした。  雅成はミモザから離れ、一番遠い椅子に座り距離をとる。 「女神、王がお待ちです。さぁこちらに」  雅成を拉致した男が入ってきて手を差し出すと、雅成はその手を取った。 「お前もおとなしく、ついてくるように」  嫌がるミモザの腕を屈強な男が掴み、引っ張る。 「おい、あまり手荒に扱うな。一応そいつも王御所望の品だ」  屈強な男は渋々ミモザを掴む力を弱めた。

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