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第66話 計画 ①

 雅成とミモザが連れてこられたのは、赤いベルベッドのような滑らかな絨毯が敷き詰められた謁見の間。  部屋の両サイドの壁際には一列に鎧をつけた兵士が並んでいて、どこにも逃げ場がない。  正面には階段があり、数段高いところに王座の椅子があった。  そこに贅肉で体が大きくなりすぎている50代ごろの男が座っている。  その周りを露出度の高いサリーを着た女性が5、6人ほどいて、その女性達全員、首輪をつけさせられていた。    玉座に座っている男は雅成を見ると、 「お〜私の女神……」  (はべ)らせている女性を押し退け、身をの出す。 (どこかで見た顔……)  よくよく顔を見ると、その男は以前闇オークションにやってきて、乳首を舐めまわし、雅成が男の顔の前で脚を開いて楔を扱き自慰するのを這いつくばるように見、蜜を顔にかけてほしいと言った男。  それだけでは飽き足らずオークション終了した後、嶺塚に雅成を連れて帰りたいと大金を詰んだが聞き入れられず暴れ、オークションへの参加を無期限禁止されていた。  確か他の国とはあまり国交のない国の王だと言っていた。 (名前は……サムナン王だったかな?) 「女神、私のことを覚えているかい?」  ねっとりと体にこびりつくような猫撫で声で、男は雅成に語りかける。 「もちろんですよ、サムナン王」  もし間違っていたら取り返しがつかないことになるかもしれなかったが、男の心を掴むには覚えていることが大切だった。 「私の女神! 覚えてくれていたんだね。嬉しいよ、嬉しいよ」  歓喜に震えながらサムナンは玉座で脚をばたつかせる。  名前を間違えていなかったことに、雅成はホッと胸を撫で下ろす。  雅成とミモザの拉致を命令したのがこの男。  首輪をつけられている女性達も、きっとこの男に脅迫、拉致されたのだろう。  ちらりと一番近くにいた女性を見ると、手首に縛られた痕や頬は打たれたのか腫れている。  目は虚で希望を全て打ち消されてしまっているよう。  ただ生きている屍になってしまっているようだった。  怒りが湧いた。  今、もし雅成の手に刃物があれば、直ぐにでも喉を掻っ切ってやりたかった。  捉えられた女性達の首輪を外し、自由にしてあげたかった。  彼女達がいた国に、故郷に帰してやりたかった。  愛する家族のもとへ帰してやりたかった。  でも今の無力な雅成では何もできない。  彼女達を無事に助けるには緻密な準備が必要だ。  煮えたぎる怒りを胸の奥深くに無理やり押し込み、気付かれないように深呼吸をする。 (さて、今から奴の目を盲目にしてやろう)  闇世界でさまざまな奇人変人、権力や金を持った者のプライド、歪んだ思考を持ったものを見てきた。  そしてその人間がどうすれば喜ぶか、どうすれば雅成に酔狂するかも熟知している。  雅成はサムナンを操る準備に取り掛かった。

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