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第4話

 かさついた指が俺の身体をなぞっていく。皮の厚い指先が胸の尖りを撫で、くるくると輪郭をなぞる。やられる側は初めてでくすぐったい。  笑いそうになるのを堪えるために身を捩っても、橋倉の指は執拗に俺を追いかける。  女のように身体が柔らかいわけでも、胸があるわけでもない。下半身には同じものがぶら下がっているのに、橋倉は俺が男だと確認するような愛撫だ。  「もしかして、男慣れしてる?」  「……俺、ゲイですから」  「もしかしてラッキーだったのかね」  さっきまでの心配が杞憂に終わり、俺の頬は勝手に緩んだ。  お互い男同士が初めてだったら四苦八苦していたかもしいれない。  ある程度男同士の知識はあるといっても、実践となれば別だ。経験者がいるに越したことはない。ツいていた、と言わざるおえない。  肩にかかっているだけのバスローブが取り払われ、ゆっくりと後ろに押し倒される。男二人分の重さに耐えかねたのか、スプリングが嫌な鳴き方をした。  下半身に目を向けると、橋倉の下着は膨らんでその存在を主張している。  本当にゲイなんだな。  同性に欲情する感覚が理解できないと思っていたけど、俺の息も上がり、気が付けば橋倉の背中に腕を伸ばしていた。  ゆっくりと目蓋を閉じ、橋倉にすべてを委ねた。  自分の中に異物が押し入ってくる。懸念していた痛みはなかったが、代わりに異物感があり気持ちが悪い。  受け入れるために作られていない器官が、橋倉の手によって変えられていく。頑なに進入を拒んでいた肉壁が少しずつ解されていくのがわかる。けれど気持ちいいとはほど遠い。  指一本でこの圧迫感だ。橋倉のものが中に入ったときを想像してぞっとした。  萎えてしまった俺の欲望を扱きながら、橋倉の指の動きは丁寧だった。男が初めてだという俺を慣らすのには相当苦労を強いられているはずだ。  好きでもない相手なら尚更、さっさと済ませたい気持ちもあるかもしれない。  だが橋倉は無理矢理開こうとはせず、時間をかけて慣らしてくれる。  「んあ……ん」  「痛いですか?」  「痛くないけど、気持ち悪い」  「力、もう少し抜いてください」  橋倉の指は俺の中をやさしく広げていく。ローションが垂らされ、  空になったボトルが枕元でまた増えた。  女のように感じれば濡れるわけではない身体を、ローションを使って解す。そこまで使う必要あるのかとこっちが目を剥くくらいローションを消費し、ぐちょぐちょと水音だけが増していった。  身体の力を抜きたくても、未知の異物感のせいで無意識に強ばってしまう。  「ゆっくり息を吐いてください」  「は、あ……はあ」  「上手です」  まるで子どもを説くようなやさしい声音で、根気強く愛撫を続けてくれる。  こんなにやさしくされたのは初めてだ。  嬉しいような切ないような気持ちが胸をかき回し、涙となって溢れた。それを痛さからくるものと勘違いした橋倉が目を白黒させた。  「泣くほど痛いですか、すいません」  「違う。そうじゃねえよ」  続けて、と言うと抜きそうになっていた指をさらに奥まで押し入れられた。橋倉の指の腹が奥を掠めると身体がびくりと反応した。  「あっ」  「ここですか」  目敏い橋倉の指が、何度もその箇所を指の腹で撫でた。  その箇所から全身に電流が駆け抜けていく。萎えかけていた屹立も天を仰ぎ、頭が痺れるような快感を生んだ。  「やめ……だめ、あっ!」  あまりの気持ちよさから、譫言のようにやめてと叫んだ。本当にやめられたら困るのは俺なのに、迫り来る官能から逃げてもっと追い詰めて欲しい気持ちにさせられる。  橋倉はいつのまにか指を増やし、俺を激しく攻め立てた。その表情は切羽詰まったものに代わり、眉間に深い皺が刻まれている。  「挿れていいですか?」  「うん。いいよ」  指が抜かれると中がきゅんと物足りなそうに萎んだ。もう俺の身体は男を受け入れるために変えられている。  橋倉の先端が俺の秘孔を数回撫でると、ゆっくりと腰を進めてきた。  ぎりと中が開かされていく。  「あっ、あ……くっ」  「呼吸を止めないで、息を吐いてください」  「はあ……はっ、ああ」  中が解されているので屹立が難なく奥へと入ってくる。一番太いカリを通過すると、するすると先へ進む。  痛みはないが異物感が指の比じゃない。浅い呼吸を繰り返し、何とか受け入れようと試みるが、うまくいかない。助けを求めるように橋倉の肩に手をかけると、体温の高さにぎょっとした。  「やっぱり綺麗だ」  酒にも酔わなかった男の焦点が定まっていない。熱に浮かされたように視線は彷徨い、俺を見下ろすとにこりと笑った。  こっちは苦しくてしょうがないというのに、邪心のない笑顔を見せられ釣られて笑ってしまった。  汗の張り付いた前髪を左右に分けられ、露わになった額に橋倉の唇が降りてくる。二、三度触れると顔を俺の肩口に落とし痛いくらい身体を抱かれた。  「すいません、もうやさしくできないです」  「えっ、ちょ……ああ」  反論するよりも先に律動が開始され、俺は橋倉の背中に腕を回し官能の世界に溺れた。

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