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第5話

「よほどお腹すいてたんでしょう。ええと……、僕は数斗さんとお呼びしても?」 「好きに呼んで下さっていいですよ、笠井でも数斗でも」 「それ、数斗って珍しい響きですよね。どんな由来があるんです?」 「あは、いや、俺の母が占いを好きな人で。タロットカードってありますでしょ?あれにワンドとかソードとかって、4種類の要素があるんですけど、その要素のことを『スート』っていうんですって。で、スートが全部揃うと万能な人間になれるとかで、大体そんな願いが込められていたりして……とても、」 とても分不相応な名前なんです。そう結んで頭をかいた。 途中、ウェイターがコーヒーのおかわりを勧めてきた。僕はもらって、数斗は断った。 「深水さんて、おいくつなんですか?」 「25ですよ」 「へえ、じゃあ俺の三つ下ですね」 これには思わずコーヒーを吹きかけた。 「えっ本当に? 嘘ですよね? え?」 「ちょ、それどういう意味ですかぁ」 まさかの三つ上? 信じられない。 ブレザーを着せれば、高校生と偽っても余裕で騙せそうなフェイスなのに。 僕の驚きをよそに、スートは『自分で払いますから』などと言いつつメロンフロートを追加注文した。 味覚もDKというか、JKみたいだ。 なんて感想はおくびにも出さずに、僕は話題を変えた。 「検診で嫌なのは胃カメラですよね。僕バリウム飲むのが苦手で苦手で」 「ああ、皆さんそうおっしゃいますよね。実は俺、バリウム飲めない体質で。だから胃カメラはやったことなくって」 「飲めない体質?どうして」 「それは、──あ、」 話途中でメロンフロートが到着して、スートの気持ちは完全にそっちへ持っていかれた。 「すご、サクランボが三つも乗ってる‼︎ 今ってサクランボ自体ないやつが多いのに、三つもって‼︎」 なんて嬉しそうなんだ。 缶詰のサクランボで良ければいくらでも買ってあげるけど、そういう問題じゃないんだろうな。 嬉々としてクリームを掬い上げていく細長いスプーン。 時おりチューと音立てながら、ストローの中をのぼっていくグリーンの液体。

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