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第6話

「美味しい……! 深水さんも飲んでみませんか?」 なんていうから、 「じゃあ、お言葉に甘えて」 僕は身を乗り出すと、スートが口をつけた同じストローをおもむろに(くわ)えて、チュウ、と吸い上げて見せた。 「っ、……」 スートの綺麗な瞳の奥が、わずかに揺れた。 品の良い唇が小さく開き、目線が所在無げにテーブルの上を泳ぐ。 明らかに動揺していた。 「本当だ。美味しいですね」 「……」 「スートさん、どうか?」 「──あっ、いえっ! そ、でしょ、美味しいですよね。ええ、ほんとに……」 スートは無言でクリームを掬うと、ぎこちなく口に運んだ。それからまたクリームを掬い上げた。ストローには手をつけずに。 そりゃ、いきなり他人に──あまつさえ同性に同じストローを吸われたら、良い気持ちはしないだろう。僕と同じ趣味でもない限りはね。 でもスートは、僕の傍若無人な行いを非難しなかった。それどころか、自身の動揺を僕に知られて僕が苦しい思いをしないようにと、必死に気持ちを押し隠そうとしているように見えた。 なんて健気で、優しい人なのだろう。 人一倍気遣いができるだけに、損をすることも多いタチに違いない。 だけど、そんな顔をされたら、もっと──── もっともっと、 虐めてしまいたくなる。

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