6 / 26
第6話
「美味しい……! 深水さんも飲んでみませんか?」
なんていうから、
「じゃあ、お言葉に甘えて」
僕は身を乗り出すと、スートが口をつけた同じストローをおもむろに咥 えて、チュウ、と吸い上げて見せた。
「っ、……」
スートの綺麗な瞳の奥が、わずかに揺れた。
品の良い唇が小さく開き、目線が所在無げにテーブルの上を泳ぐ。
明らかに動揺していた。
「本当だ。美味しいですね」
「……」
「スートさん、どうか?」
「──あっ、いえっ! そ、でしょ、美味しいですよね。ええ、ほんとに……」
スートは無言でクリームを掬うと、ぎこちなく口に運んだ。それからまたクリームを掬い上げた。ストローには手をつけずに。
そりゃ、いきなり他人に──あまつさえ同性に同じストローを吸われたら、良い気持ちはしないだろう。僕と同じ趣味でもない限りはね。
でもスートは、僕の傍若無人な行いを非難しなかった。それどころか、自身の動揺を僕に知られて僕が苦しい思いをしないようにと、必死に気持ちを押し隠そうとしているように見えた。
なんて健気で、優しい人なのだろう。
人一倍気遣いができるだけに、損をすることも多いタチに違いない。
だけど、そんな顔をされたら、もっと────
もっともっと、
虐めてしまいたくなる。
ともだちにシェアしよう!