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第7話

「今日は有給を取って行かれたんですか?検診」 内心のおかしさを噛み殺しながら、他愛もない質問を続けた。 「……あ、ええまあ……。深水さ、」 深水さんは?と返される手前で、 「そうでしたか!これはうっかりしてたなぁ。スートさんの貴重なお時間を、僕なんかが奪っちゃって。彼女に叱られませんか?」 「え、……や、それは、」 「スートさんの彼女ってどんな人なんだろうな。きっと可愛い方なんでしょうね」 うそぶいてコーヒーをひと口飲んだ。 ややあってスートは、俯きながらこう答えた。 「いません、よ、彼女なんて」 「え、そうなんですか?意外だな、モテそうなのに。理想が高いんですか?」 「いや、そんなことは。前は、いたんですけどね。でもモテそうっていえば、深水さんの方こそですよ」 うん? モテるかモテないと問われたら、モテる方には入るのだろうか。 黒髪が良いとか、目が好きだとか言われるが、総じて『人を喰ったような顔だ』といわれる。 どう受け止めて良いのか分からない評価ではある。 「それよりスートさんの彼女って、どんか方だったんです?興味あるなあ」 だいたい察しはつくけどね。 「どうって、うーん……そうですね、素直な人でした」 「素直?」 「ええ。でも俺がふがいなかったから、願いを全部叶えてあげることが出来なくて……」 やっぱりな。 どうせスートが従順なのをいいことに、際限なく欲求をぶつけてきたのだろう。 「ふうん?」 「そのうちだんだん俺も自信なくしてきちゃって、彼女にも、申し訳なくなってきて……」 「ふったんですか?」 「いや、ふられました」 「どうして」 「他に好きな人ができたって……」 (てい)のいい言い訳だな。要は女が浮気して、その浮気相手のセックスにハマったってことだろ。 「スートさんがフラれた一番の原因て……」 「はい?」 スートは、ここでやっと僕を見た。雑に噛み合う視線。 僕はにやりと笑って、テーブルの上に身を乗り出し、スートの耳元に囁いた。 「原因て、夜の方ですか」 「えっ……」

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