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第9話

「──飲まないんですか?メロンフロート」 「あの深水さ、……っ」 「美味しいですよ、ホラ」 利き手でスートの襟を引き、ストローの先をぐっと唇に近づけた。 「早くしないと氷、ぜんぶ溶けちゃうでしょ」 「……もう、お腹いっぱいで、」 「……いいから」 もう一度その耳に唇を寄せて、わざと声を落として、 「……飲めよ」 と言った。 華奢なうなじがビクッと震え、やっと開いた唇がストローの先を咥え込んだ。ごく、ごくりと飲み込んでいく。 「……ぐ、ゲホッ!」 炭酸が喉にきたのか、むせった口元からジュースが飛び散り、顎まで垂れた。 ──店内の客は僕たちだけになっていた。 ウェイターも、今は厨房の奥に引っ込んでいるようだった。 僕は無言で、その垂れたジュースに舌を這わせた。 スートの体がまた、びくりと震えた。 顎のジュースをやわやわと舐め取り、ゆっくりとその上に迫っていく。 甘く濡れた下唇に舌の先を這わせる。 スートはわずかに声を漏らした。 「スートさん。感じてるんですか?」 キスするギリギリの位置で舌を止め、下方からその顔を覗き込んだ。 スートは今にも溢れそうなほど涙を溜めて、何か訴えるように僕を見つめていた。 「……っ、おれ、唇、……弱くて、だから、」 上気した頬、怯えた目の色。 ──欲しい。 今すぐに舌を差し込んで、めちゃくちゃにキスして犯したい。 ガンガンに奥を突いて、壊れるまで泣かせたい。 「自分から弱点を教えるなんて、誘ってるんですか?」 「えっ、ち、ちがっ……!」 「スートさん」 「……は、……」 「もう分かったと思いますが、僕、ゲイなんです。スートさん僕のモロ好み。良かったら、彼氏になってくれませんか?僕も今ひとりで、寂しいんです」 そうあくまで、特定の彼氏はいない。数人のセフレの顔がうるさく浮かぶだけで。 「……で、も、……」 「なってくれたら今の続き、たくさんしてあげますよ? そうだな……腰がとろけるようなキスをしながら、イカされるなんていかがですか」 「……っ、……」 「ね?」 だめ推しにその手をキュッと包み込むと、形のいい顎が、こくん、と頷いた。

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