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第14話

会話が途切れ、互いに無言でパスタをすすった。 あの日ホテルでスートが気絶してしまった時は、このまま襲ってしまうかどうか、かなり迷った。 けど無反応のやつを抱いても楽しくはないし、気つけになりそうなものも持っていなかった。 仕方なく側にいて、翌日の朝方にスートが目を覚ましたのを確認してから、先に帰った。その日は朝から仕事が入っていた。 僕はいわゆる一部上場企業の商社マンというやつで、ゴールデンウィーク明けはいつも仕事が雪崩れ込んでくる。このひと月の間は、まともに休みも取れなかった。 スートとはかろうじて連絡先を交換していたから、ラインと電話は重ねてきたが、顔を合わせて話をするのは今日がやっと二度目だ。 しかも休みを取れたのは午前だけで、午後はまた仕事が入っている。あと30分もしたら店を出なければならない。 時間的に頃合いだなと思い、バッグから紺のリボンを掛けたクラフト製の紙袋を取り出した。 無造作にそれを差し出すと、スートは目をぱちくりとさせた。 「え、何ですか?」 「誕生日、明後日だと言ってたので。当日は会えそうもないし」 「えっ!? あっ、ありがとう、ございます……!」 は、天使かと疑う光差す笑顔。 さっき観た映画の白い犬、あれにもよく似てる。あの犬、名前なんだっけ? 「中見てもいいですか!?」 「どうぞ」 丁寧な仕草で袋を開けたスートは、取り出してそれを見るなり 「あ、……」 表情だけは嬉しそうなまま、はたと動きを止めた。 なんだ? 気に入らなかったのか? 青いグラデーションフェザー型のペンダントトップがついた、チェーンタイプのシルバーアクセ。似合うと思ったし、けっこう良いものなんだが。 「好みに合わなかったですか?」 「いっ! いえっ、いえいえ、ぜんっぜん⁉︎ めちゃめちゃ合います、絶対大事にします!仕事の日でも毎日つけます、毎日!!」 「お、おお……」 毎日? 介護士だか保育士だとか言っていた気がするが、大丈夫なのか? 「嬉しい……」 本当に嬉しいのが伝わってくる熱視線で、手の内のそれを見つめる。 やべえ、かわいい。今すぐ犯してガン突きしたい。 次の休みまで、あと三日だ。 あと三日。 耐えるしかない。

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