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第19話
何と声を掛けるべきなのか分からない。
弁解? でなきゃ──、
「す、……今のは、別に、」
「──じゅつ……」
「え?」
スートはツッと一枚のカードに触れた。
棒を持った男が逆さに立っている絵。
「魔術師の逆位置は──詐欺師」
言いながらその指が、また別のカードに触れた。
「カップのナイトの逆位置は……不誠実」
金のカップをかかげた嘘くさい男が描かれている。
「悪魔は、依存と執着。不誠実な詐欺師に依存して、俺は抜けられなくなって──」
「おい、」
「塔 、崩壊する。結末はソードの3とソードの10。身も心も、ボロボロに砕け散って──」
「スート、」
「……終わる」
全身から冷や汗が噴いた。
「スート」
手を伸ばした瞬間、スートはバッとベッドから飛び降りた。
バッグを拾い上げドアに逃げ込む、その背を羽交締めにして引き留める。
「はなして下さいっ」
「聞けよ、あれはただ」
「変だとは思ってたんです、深水さんみたいな素敵な人が、俺なんかと付き合うなんて」
「そん、……」
「本当は違うんじゃないか、嘘なんじゃないかって……」
「違う、さっきのはただ」
「俺は浮気相手になるのは嫌です、どうしても嫌です」
「スート、」
「俺の母は、父を愛人に奪われました。ずっとひとりで、苦しんで生きてきたんです。だから嫌です、他の誰かを苦しめることは」
「だから今のは別に本命でも浮気でもねえって!」
「え、は……? じゃあ……?」
「友達だよ、ただの」
「……とも……?」
「セフレ。ヤるだけの相手。好きとかそんなんじゃねえ」
「は……何ですかそれ? 浮気とどう違うんです」
「どうって、だからただの発散相手だよ。好きとかそんなんじゃねえ」
「ええ……ううん……? いやでも……、そ、それでも、特定の人以外を、触るってことですよね?」
そう言われてしまえばぐうの音も出ず、返事が遅れた。
「っ、やっぱり俺、帰ります!」
「待てって、お前と知り合ってからは誰とも会ってねえよ!」
とまで言ったところではたと思いつき、スートを無理矢理こちらに向かせた。
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