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第28話 お土産
頭や肩に積もった紙吹雪を払いつつ、一行は広場を訪れていた。帰る前にお土産を購入するためだ。運よく青色が見つかったので、キミカゲとディドールに何かひとつ買うくらいの余裕はある。後ろでホクトが財布を握ってそわそわしているが、さすがにこれは自分の金で買いたい。
やんわりと拒絶の意を示すと、狼耳と尾がしおれた。
「あうう……」
店頭に並んだ品物を物色しながらミナミが狼に手招きする。
「そんなに財布に余裕があるなら、ボスに土産でも買えば? ほら、これとか、ボス好きそうじゃないですかー?」
「ううん。やめとくっす。無駄遣いするなって怒られる」
土産は無駄遣いなのだろうか。ボスは喜ぶと思う。
「たくさんあるー」
フリーがごちゃつく店内を物珍しそうに眺めていると、棚の上に丸い玉を抱いた木彫りの動物の置物があった。鈍いが上品に光る白銀の玉。それが埋め込まれており、可愛く両手で玉を持っているように彫られている。凝ったデザインなのに、目立たない店の隅っこに置かれているのが気になった。
手に取り、近くにいたリーンに声をかける。
「ねえ、先輩。これって? 白の欠片なんてありましたっけ?」
「ん? おお。どこにあったんだそれ。それは欠片じゃなくて、真珠だ」
「しんじゅ? 棚の上にありました。欠片じゃなくて? ですか?」
リーンはさっと周囲を確認すると、そろそろとフリーに近づき、声量を下げて耳打ちする。
「敬語」
「あ! ごめんなさ……すまんかった」
「真珠ってのは貝から採れる海の宝石だ。……ミナミさんは関係ないから見るな。で、ここは昔、名前の通り、真珠が採れる村だったんだ。でも見つけるのが大変だし、量が採れるわけでもない。それに今は欠片の方が村にとっては需要があるから、村名に青が足されたんだよ」
木彫りを白い手から抜き取る。
「だからこれは恐らく、ここが欠片で活性化する前の土産物だな。木が随分古くなっているし、埃でべたついている」
ふっと息を吹きかけ、着物の袖でゴシゴシと表面を擦る。べたつきの取れた木彫り動物の顔が、ほころんだ気がした。
しかし、汚れ具合からして店の奥に忘れられたように置かれてあっただろうに、よく発掘出来たものだ。
(って、こいつの身長なら普通に見える場所か……)
リーンでは棚の上など見えないが、フリーからすれば目線の位置だ。
「で、これ買うのか?」
「真珠って、魔除けとかの効果あるの? それならくすりばこに置いておきたいな」
「ない」
フリーは木彫りをそっと棚に戻した。
「ないのか……」
「そんながっかりすんなって。他のものも見ようぜ」
リーンと土産物内をうろついていると、ぎゅっと足を踏まれた。ヒトが多いしこういう事もあるだろうと下を見ると、黒い犬耳が見えた。普通に足の上に立っておられる。
「ニケ。あの……痛いんですが」
「ヒトが多くてのんびり品物を見てられん。肩車――じゃなくて抱っこ」
「抱っこが良いの?」
抱き上げるも、答えたのはリーンだった。
「ここで肩車したら、ニケさん、頭ぶつけんだろ」
「おーう。そうだね。ここ天井低いし」
「「お前(さん)がでかいんだよ」」
きれいに重なった。
「ったく。で、ニケさんは決まりました?」
頷くと、ニケは握っていた両の手を開く。
「指輪だと薬の調合時に邪魔になると思い、翁には髪留めの魔九来来(まくらら)防具。フリーが世話になっているディドールさんには耳飾りにしました」
ニケの手のひらに収まるほど小さく、どちらも黄色の欠片があしらわれている。黄色は性能が中間くらいなので、お土産として渡すにはちょうどいい。あまり高価なものだと、受け取る側が気を遣う。
もちろん例外もいて、青い欠片が使用されている魔九来来防具をディドールに渡したいリーンは、値札を見て顔をしかめる。
「ぐぐぐっ。手持ちがだいぶ足りない……」
「青色は流石に、諦めましょうよ。俺はニケの分も買いたいなぁ」
赤い瞳が見上げてくる。
「おい。何で一緒に来ている僕にまでお土産を渡す気でいるんだ?」
お土産の意味をよく理解していないのではないだろうか。
この分だと、リーンやホクト達の分まで買うと言い出しかねない。
「ホクトさんやミナミさんにも。あ、先輩の分も買いたいんだぁ」
本当に言いやがった。ここは注意してやるべきだろうか。
逡巡したが、好きにさせるべきだろうと判断した。別に楽しそうに土産物を眺めているフリーの顔を見ていたら忘れていた、とかではない。
フリーは人数分の腕輪を持つと、ニケを抱いたまま店員の元へ。
「すいません。これまとめて買うのでこの値段でどうです?」
いきなり値切りだした白い長身に、店員とニケは目を見張らせた。
――こいつ、値切るなんて知識、あったのか。
そういえば出発前に翁が「まずは値切ってみようね」とおっしゃっていた。
(ああ。それでか。びっくりしたやんけ……。しかし羞恥心や人見知りという文字が辞書にないやつは強いな。いろんな意味で)
呆れつつも、口を挟まずに見守ってやることにする。
店員は首を振って、定価よりは安い値段を言ってきた。
「だったら、これでは?」
自分の最初に提示した値段より若干高めの値段を指で示す。返答は否。先ほどよりも少しだけ下がった値段が提示された。
「では、これも買うのでこの値段で」
と言って、持ってきたのは先ほどの真珠を抱いた木彫り。店員は目を点にして「こんなものあったっけ?」みたいな顔をしたが、諦め半分に笑いながら頷いた。交渉成立。フリーと店員さんが熱い握手を交わす。
「ふぅ。お客さんには負けたよ」
「やったー! 勝った」
はしゃぐな恥ずかしい。
でも喜んでいるので突っ込まないであげた。
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