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「俺のクローゼットは、お前のおかけで数年前にキャパオーバー済みなの」
肩をすくめ答える響に、「お前らはジャンルが違う美形だから、選ぶ服も変わって面白いのに」と英司が不満をこぼす。響はそれを無視して、自分のベーグルに手を伸ばした。
英司とは中学一年生の時に同じクラスになってから、もう十年以上の付き合いになる。
交遊関係はアルファのみだった響に初めてできたベータの友人で、オメガになった後も、関係が続いている唯一の人間。
気づけば一緒に会社まで立ち上げてしまった。
「まぁ、近いうち宮下は担当を外れるだろうけど。それまでは、バイオセキュアテックは響に代わって俺が受け持つ」
「わかった」
そう頷いた時、スマホがメールの受信を告げた。
内容を確認すると、送信元はコンペの主催会社で、一次審査通過の知らせだった。
間違いなく通過するとは思っていたけれど、やはり嬉しい。
「よし。分かってたけど、一応乾杯しとくか」
英司が笑う。彼にも同じメールが届いたらしい。
「なに?」
壱弥がサンドイッチから顔をあげる。
「コンペの一次に合格したんだよ。引き続き、最終審査に向けて頑張ろう」
響がコーヒーカップを軽くかかげると、英司も、それに習い壱弥も自分のドリンクを持ち上げた。
「最終審査って、なにするの?」
尋ねる壱弥に、響は今回のコンペの概要を簡単に説明する。
最終審査は来年の二月。
一千人前後が来場する会場内で、一次審査を通過した五社が自分たちカラーのプレゼンを行う。
その様子はネットでもリアルタイム配信され、コンペ関係者とイベント来場者、ネット視聴者からも投票を受け付け一位と二位のカラーを決める。
同会場ではアーティストによるライブなども開催され、そこでカラーの商品化が決まれば当然大きな話題になるし、かなりの売り上げが期待出来る。
「コンペ取ったら、その後の方が大変だろうな。取材やら発売イベントやら、当分休みねぇな」
英司がわざと大きな溜め息を吐く。
「取ったら、だろ」
「取ること確定なスケジュール組んでてよく言うわ」
呆れたように言う英司に笑い、響は腕時計を見た。
英司が担当する取引先のアポの時間と、響の定期健診の予定時刻が迫っている。
「そろそろ行くぞ」
皆が食事を終えていることを確認し立ち上がる。
英司の愛車の運転席には壱弥が座り、英司をクライアント企業の近くで降ろし、響は幼少期から世話になっている病院へ向かった。
九段下にある私立病院の診療室は、座り心地のいいソファや壁がけの大画面テレビ、コーヒーメーカーなどのミニバーも備わっていて、まるでホテルのような雰囲気だ。
最新の医療機器や腕の良い医師が揃っているだけでなく、皇族や政治家、芸能人といったセレブリティの利用が多い為、患者のプライバシー管理も徹底している。
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