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響の声は震えている。快感か、それとも罪悪感か。大きな瞳からは今にも涙がこぼれ落ちそうだ。
「……謝らないで。大丈夫だよ」
壱弥の声も震えていた。
「俺は、オメガのフェロモンに当てられない。絶対……響を傷つけない」
自分に言い聞かせるように呟く。
その間にも部屋を満たす響のフェロモンはさらにその濃さを増していく。
「っあ……!」
ベッドに向かい合うように座り、響の熱い塊を上下に扱いた。
「んんっ……あ、はぁ……っ」
響が甘く声を上げ、壱弥のシャツを掴む。快感に翻弄されている響を見て、喉が鳴った。
気づけば、壱弥の下半身も痛いほどに張り詰めている。奥歯を噛み締めても、ふーふーと動物みたいな荒い息が抑えられない。響の甘い匂いが、声が、体温が、壱弥の脳髄まで染み込んでいく。
「……響……」
名前を呼ぶ自分の声は、低く掠れている。
――響。響。……俺の響。
激しい欲望と征服欲が、堰を切ったように湧き上がった。
初めて知る強い感情は、けれどやけにしっくりと、壱弥の内側に馴染んでいく。
それは、初めて知るというより、元からあったものが正しく作用し始めた、という感覚に近いような気がした。
手を動かしながら唇を塞ぐと、響も積極的に応えてくれる。絡まる舌は柔らかくて、熟した果実のように甘い。
指先に響のカラーが触れた。うなじ部分を撫でると響のキスが深くなる。片手で響自身を慰め、片手は番になるための場所に触れている。響を自分だけのものにしたような、まるで、支配しているような気持ちになって、背中にぞくぞくとした興奮が走った。
長いキスを終わらせ唇を離すと、溶けたような顔の響と目が合った。響の小さな頭を引き寄せ、また深い口付けを始める。そのままベッドへと押し倒し、響の上に覆い被さった。
壱弥の頭は沸騰したようにうまく働かない一方で、ひどく冷静にこの状況を理解していた。
これが正しい形だ。なんの問題もない。
――響を支配するのは俺なんだから。
唇を首筋に移動させ、カラーのすぐ下あたりを強く吸った。
響が身体を震わせ、甘く声を上げる。
壱弥の五感は研ぎ澄まされ、響の全てを脳に刻み込む。響の塊から鳴る濡れた音、壱弥のシャツをきつく握る指先、汗を含んで額に張り付いた前髪、太陽に触れているみたいに熱い肌。
そして、こぼれた大粒の涙。
ずっとギリギリの表面張力に耐えていた響の大きな瞳が、ついに決壊した。
「……俺……本当に、オメガなんだな……」
赤く艶めいた響の唇が、独り言のように言葉を落とした。
涙に濡れたその小さな声は、諦めや自嘲の色を含んでいて、響に似合っていなかった。
壱弥は強い引力に抵抗して、なんとか響の上から身体を起こす。
気を抜けばまた響に触れそうになるのを、自分の唇を噛んで堪える。血の味が広がり、その痛みに思考が少しまともになった。
「……いち、や……?」
「……響、……ちょっと、待ってて」
肩で息をしながら、椅子にかけられたジャケットを掴む。ポケットを探り、抑制剤を取り出した。
自分の襟元を引っ張ると、シャツの釦がいくつか飛んでいく。かまわず、鎖骨の下辺りにパッチ剤を貼った。
ヒヤリとした感触に息を吐く。
「……壱弥……どうしたの……?だいじょ、ぶ……?」
自分も苦しいだろうに、心配そうに壱弥を見上げる響に、混乱に近い衝動とも、凶暴な本能とも違う、温かな気持ちが広がる。
「……大丈夫、だよ。ごめんね。……今、楽にして、あげる」
響の頭を撫でて、目尻にキスをする。
辛そうに震える響のものを再び握った。
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