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 最近は、マスコミや記者に見つかるのが面倒で、プライベートの外出は極力控えている。日用品などの買い出しは、今日のように壱弥に頼むことが増えた。  壱弥は退院後、問題なく体調も回復し、以前と変わらず響のボディーガードを続けている。  響は、壱弥が倒れる前から、彼の様子がおかしいことに気づいていた。  響が通常の症状でヒートになった日から、壱弥は響を露骨に避けるようになった。ハグはおろか、近づくことさえしない。今までがスキンシップ過多だった分、余計に不自然さが目立った。けれどそれは、響との接触を拒んでいるというより、怯えているように見えた。  壱弥が響を避け始めた時期と、壱弥の態度、そして木之原から以前聞いた、フィアラル・アルファの仮説。それらを踏まえ、彼は自分に発情したのではないかと、響は考えた。  もしそれが事実ならば、壱弥を側に置いておくことは出来ない。周期が不安定になり、いつヒートになるか分からない中、発情するアルファはもっとも危険な存在だ。すぐに壱弥に事実確認をしなければいけないのに、響はそうしなかった。出来なかった。  ――本当に壱弥が発情すると分かってしまったら。壱弥と離れる?彼が自分の側からいなくなる?  考えるだけで嫌な汗が滲んだ。  本質的、長期的、客観的に物事は考えなければいけない。頭では理解している。それなのに、幼少期から教え込まれた理論的な思考回路はまともに働かない。  危機管理が出来なくなるだけでなく、壱弥が自分に触れないと、寂しさや悲しみを感じてしまう。英司や美琴たちとの新年会では、隣に壱弥が居ないことが嫌で、酒に逃げる始末だった。  そうして、ズルズルと決断を先延ばしにしているうちに、壱弥が倒れた。抑制剤の過剰摂取が原因だった。パッチ型から注射型へと、薬の強さも使用頻度もどんどんエスカレートしていたらしい。  壱弥が抑制剤を使っていたことは知らなかったから、動揺して、後悔して、彼を追い詰めた自分を責めた。  医師から「数日の入院で大丈夫」と聞いた時は、心底――本当にちょっと涙が出るくらい、安心した。そして、壱弥と離れるなんて絶対にできないと確信した。  彼に惹かれるのが、バース性特有の遺伝子や本能の反応だとしても、自分が反応する相手が、壱弥で良かったと思える。彼の温かなで純粋な心に触れるたび、その思いは強くなる。  壱弥が発情するのだとしても、壱弥の側にいたい。壱弥となら番になってもいい。いや、自分の番は、壱弥以外にいない。 「お前、俺に発情した?」  病院に運ばれた翌日、目覚めた壱弥に、響は率直に尋ねた。  ベッドに上半身を起こしていた壱弥は、ぐっと唇を噛み締め、項垂れるように頷いた。 「ごめんなさい。……俺、響のヒートに反応した。だけど、宮下が海外へ行くまで、って……黙ってた。本当にごめん」  シーツの上に置かれた壱弥の拳が、強く握られ白くなっている。 「壱弥」  響の声に、彼の肩がびくりと揺れた。大きな身体を縮こませたまま、力なく顔を上げる。その死刑判決を待つような表情に、響は胸が痛んだ。 「……もう。そんな顔すんなよ。俺が意地悪してるみたいでしょ」  ベッドサイドの来客用の椅子に腰掛け、壱弥の手を撫でた。壱弥は戸惑いながら、それでもおずおすと拳を開く。

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