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「プレゼント?俺に?」
つまみ上げた苺を一口で食べ、壱弥が首を傾げた。
響はその隣で、オレンジジュースを飲みながら頷く。
「そう。コンペに勝ったお祝い。優秀なボディーガードに、なにか贈りたいと思ってるんだけど」
朝食には遅く、昼食には早い微妙な時間。
朝起きて、シャワーへ行こうとしたら壱弥にベッドへ引き戻された。おはようのキスが段々と深く激しいものになり、結局シャワーの前にゴムを一つ消費した。今はジュースと果物をベッドに持ち込み、とりあえずのエネルギー補給中だ。
壱弥と初めて最後までした日から、彼の生活部屋はほとんど使われていない。仕事が終わると、壱弥は響の家で過ごし、次の日そのまま二人で仕事に出る。オフィスのデスクスペースが復活する日も近いなと響は思っている。
「プレゼントはすごく嬉しいけど……まだ最終審査終わってないのに?」
壱弥の言う通り、コンペの最終審査は二週間後で、まだ結果は出ていない。――けれど。
「俺たちが負けると思う?」
「思わない」
即答する壱弥に、響は「だろ」と笑った。
壱弥には通常のボディーガードの仕事以外にも、買い出しや雑用もやってもらっているから、業務外手当ての他に、なにかお礼をしたいなと思っていた。
「コンペ取ったら忙しくなるし、時間ある今のうちにと思って。何か欲しいものある?」
響の提案に、壱弥はうーんと唸って、「あ、マカロン!」と顔を輝かせる。
「……お前、マカロン好きだよね」
「うん。甘くてめっちゃ美味しいから」
「オッケー。マカロンも買おう。あとは?食べ物以外で」
「食べ物以外?……難しいな……」
また、うーんと考え始めた。今度は長い。食べ物以外だと、本当に難しそうな顔で悩む可愛い恋人に頬が緩む。
壱弥の答えを待ちながら苺をかじっていると、大きな手が伸びてくる。頭を引き寄せられ、果汁の付いた唇を舐められた。
「……欲しいもの決まった?」
「響以外、思い浮かばない」
さらりと真顔でこんなことを言うから、心臓が甘く痛む。
「俺と、マカロン?」
「うん。それだけあれば、最高に幸せ」
壱弥が頬をすり寄せ、目を細める。
最高に幸せ。響もそんな気持ちで、壱弥の鼻頭にキスをする。
「なんでもいいんだよ?――ああでも、車と家以外だと助かる」
響が笑うと、壱弥もふふっと肩を揺らした。
「……そうだなぁ……響から貰えるものならなんでも嬉しいけど、……あ」
壱弥が顔を上げ、「それじゃ、身に付けられるものがいいな」と言う。
「前貰ったマフラーは、ボロボロになっちゃったから……一年中、毎日つけていられる物がいい」
壱弥の答えに、それならアクセサリーがいいかなと考える。頭の中で、いくつかの店をリストアップした。
「よし、それじゃ出かけようか。買い物と、食事も。果物だけじゃ足りないでしょ?」
身体を起こそうとしたら、腕を引かれてベッドに転がされた。壱弥が果物の乗ったプレートを手際よくナイトテーブルへ片付けて、覆い被さってくる。「こら」と咎めてみるものの、体温と匂いの心地よさに抗えない。
「響も足りない」
低く耳元で囁かれて、響は降参する。壱弥のキスを喜んで受け入れた。
メゾン系ブランドショップのソファで、手袋をつけた店員から、壱弥は商品の説明を受けている。
テーブル上のトレーには、壱弥が選んだチェーンネックレスが置かれていた。
入店して、ショーケースを眺め、壱弥が「これにする!」と購入品を決めるまで、きっと三十分もかかっていない。
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