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第2話

 俺が連れ込まれたのは洋館ではなく教会だった。  つまり謎の外人は本物の神父な訳だ。 「ドウしました?」 「いや……」  暗がりでも整った顔なのは分かったが、明るい所で見るとそのイケメンぷりの半端のなさにたじろいでしまう。  身長は俺より少し高いくらいだが、男臭さを滲ませた北欧系の顔とやや長めのハニーブラウンの髪がマッチして妙にエロい。  いや、俺がそういう目で見ているだけで、高潔な神父がそんなもの滲ませてはいないのだろうが。  ガン見するのは失礼だろうと盗み見ていると、それに気付いた神父に優しく微笑まれ恥ずかしさのあまり顔を背けてしまった。 「ワタシはジョン。君は?」 「昭匡…能登(のと)昭匡(あきまさ)」 「昭匡、良い名前デス」  社交辞令と分かってはいてもイケメンに言われると顔筋が緩む。  にやけ顔を矯正している間に食堂らしき部屋に着いた。 「ここに座って待っていて下サイ」  椅子を引いて俺を座らせるとジョンはキッチンへと消えた。  待つ事数分。熱々の食事が運ばれ何時もの調子で食べ始めるが、後光が射して見えるほどのイケメンに真正面から見詰められているのに気付き、速度を落として気持ちばかりだが食べ方に気を付けてみる。  アホ面下げてバカ食いしていた俺が急にもそもそと食べ出したのが可笑しいのかジョンは楽しそうにしている。  何だが嫌な汗出てきた。 「ジョンまた余計なのを拾ってきたね」 「シスターヘリア」  ジョンの視線の先にはシスターよりもゴッドマザーの称号がピッタリとくる貫禄と風格を持ち、堅気には見えない黒の眼帯をしたバァさんが立っていた。 「聖なる夜に迷える子羊を救うのは神父として当然デス」  子猫だったり子羊だったり忙しいな俺。 「適当言いやがって。まぁいい。今日はクリスマスだからね。特別に大目に見てやるよ」 「愛していますシスター」 「私に愛を囁くなんて百年早いよ小便垂れ」  シスターが出て行こうとしたその時。  教会の扉が乱暴に叩かれた。 「ここを開けろ!」  声に聞き覚えはないが十中八九俺を追ってきた連中だ。  その予想を肯定するように懐の携帯が鳴り響く。  通話ボタンを押せば自蔵の怒声がぶちまけられた。 『クソホモ野郎! ここにいるのは分かってんだ。屋敷ごと燃やされたくなかったらさっさと出て来い!』  とんでもない脅しに俺は慌てて席を立った。 「昭匡、何処に行きマスカ?」 「出て行くよ」 「危ないデス」 「恩を仇で返すみたいになって悪い。どんな事をしても絶対に火なんか点けさせないから」  シスターにも頭を下げ立ち去ろうとするが、シスターに腕を掴まれた。 「出されたものは最後まで食べて行くものだろう?」 「いや、暢気に飯食っている場合じゃねーし」 「いいから座りな」  俺を席に戻すとシスターはトランシーバーを取り出した。 「シスターイルマ、ミランダ、表の不信心者を速やかに排除しな」 『イエス、マザー』  え? やっぱりマザーなのか?  そんなどうでもいい疑問を余所にシスターヘリアは再び呼びかける。 「シスター櫻子。捕縛した奴らの情報を集めて持ってきな」 『了解しました。シスターヘリア』  マザーなのかシスターなのか混乱している俺の口元にスプーンが運ばれる。 「はい。あーんシテ」 「神父さん。ふざけている場合じゃねーだろ」 「ふざけてませんヨ。食事は大切デス」  確かに食事は大切だが、そう言う事じゃなくてだな。 「この後に備えて確り食べて置いて下サイ」  この後、連中との戦いがあるかもしれない。それならばとスプーンに食らい付いた。

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