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第5話 夏が来て、そして

 いつからだろう。永吉の存在が、自分の中でこんなにも大きくなったのは。  ずっと側にいたい。  離れたくない。  そう、思うようになったのは……。 「暑い……」  7月。昨年よりも今年の夏は暑く感じた。  それは、昨年いた所よりも、ここがど田舎だからかもしれない。  蝉の鳴き声や、蚊が飛ぶ音が更に夏が来た事を告げて来る。  でも、その音は樹にとって夏を知らせるだけではない。  別れが近付いてるよ、そう知らせる音でもあった……。 「樹。次は東京に戻るぞ! ようやく本社に呼ばれたんだ! 樹も受験生だし、もう転校の心配はいらない。これで心置きなく勉強に集中できるぞ。良かったなー!」  駄菓子屋でアイスを買ってから家に帰ると、父が嬉しそうにリビングでそう樹に話してきた。  それを聞いた瞬間。樹はアイスが入った袋を落とし、泣きそうになる気持ちをグッと堪えた。 「そっか……もうそんな時期なんだね……」  そう言って、笑みを作る樹。  動揺なんて姿、喜ぶ父の前で見せては駄目だ。そう思っての咄嗟の行動だった。  こんな風に気を遣った事は一度も無かったのに、今回だけは今までとは違う。 (永吉……)  夏。別れの季節。  生まれて初めて好きになった人と、一緒に過ごせるわずかな時間。 (永吉。夏が来ちゃったよ……)  樹は部屋に戻ると直ぐに泣いた。

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