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第6話 一枚のポスター
永吉には、1週間経った今でも転校の事を言えずにいた。
なかなか言い出せないのだ。こんな風に、誰かに転校する事を言わないとと思う事自体の経験がなさ過ぎて。
「あっ、祭り」
「え……?」
永吉が棒アイスを食べながら、公園に設置された掲示板の前で立ち止まり、そう言った。その言葉に、樹は永吉が見詰めるそれを見る。
それは、一枚のポスターだった。
「ここの神社の祭り、すげー盛大なんだぜ。屋台もすごく出るし、川から花火が何発も打ち上げられるんだ。観光客もすっげー来てその日はずっと賑わってる」
「へー。そうなんだ」
その祭のポスターを見て、興奮している永吉。見た目同様、祭りとかが好きなようだ。まるで子供のように目が輝いていた。でも、樹はそのポスターを見て、更に悲しくなる。
なぜなら、その祭りの二日後が樹の引っ越す日だった。
夏休みの間に引っ越すのが今まで繰り返されたやり方で、学校側も承諾済みだった。
なので、もう、知らないのはクラスメートだけになっていた。
でも、今回は特に知られたくは無かった。
永吉とは最後まで笑顔で会話をしていたい。そう、思ったからだった。
「なぁ、この祭り二人で行かねー?」
「え……?」
「浴衣着てさ、この祭り行こうぜ!」
「で、でも僕浴衣持ってないし……」
「そんなの俺の貸すって! 兄貴のもあるから何枚もあるんだ。な、行こう」
「う、うん」
永吉の輝くような瞳を見たら嫌とは言えない。それに、樹もこの祭りに行きたいと素直に思った。
永吉と過ごす最後の想い出が、この祭りになるはずだ。なら、楽しい想い出を作りたい。
一生忘れないような、強い想い出を。そう思った。
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