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第8話 展望台、そして…キス
数十分歩き、ようやく森を抜けた。すると、小さな展望台へと辿り着く。
そこには人が誰もいなくて、虫の鳴き声が少しだけ聞こえるくらいだった。
「ここ、親父が昔お袋と二人で来てた所でさ、知ってんのは俺の家の家族だけなんだ」
そう言って、永吉が木でできた年季の入ったベンチに座る。
「そうなんだ。なんか秘密基地みたいだね」
樹はそう言って永吉の後に続き、ちょこんっと永吉の隣に座った。
すると、そこからは神社が見えた。神社は出店や人の集まりによってそこだけ明るく賑やかになっていた。
この町にこんなにも人がいたんだ。そう思うほど、神社にはたくさんの人が出入りしていたのだった。
「なぁ、樹……」
「ん? なに?」
「お前さ……」
「え……?」
永吉が樹に何かを言おうとしているのが分かった。けれど、その言葉は突然打ち上げられた花火によって遮られる。
「もう、そんな時間だったんだな……。早いな」
「うん、そうだね。もう……こんな時間なんだ……」
時計を見ると、いつの間にか花火が打ち上げられる時間になっていた。
霧や雨が降らなかった今日、時間通り打ち上げる事ができたようだ。
花火は一瞬で色鮮やかに暗い空を綺麗に照らし、隣に座る永吉の横顔がハッキリと見えるほど高く打ち上げられ、花開いた。
(かっこいいな……)
永吉の横顔。声。笑顔。全てが樹にはかっこよく見える。
駄目だと思っていたけれど、もう、自覚してしまった気持ちには嘘はつけない。
永吉が好きだ……。
「すげー綺麗だな!」
「うん……綺麗だね……」
花火を見詰める永吉。その横顔を見詰める樹。この形はずっと、永遠にそうなって行くのだろう。
樹はずっと永吉を想い続ける。
夏が来る度、ここに戻りたいと願いながら。
(このまま……)
「時間が止まればいいのにな……」
「え……?」
心を読まれたと思った。永吉が、そんな事を言うから。
「お前、俺に隠してる事あるだろ」
永吉は花火を見ていた視線をいつの間にか樹に向けていた。そして、樹の汗ばむ右手をぎゅっと握る。
「転校……するんだろ」
その言葉に、こくっと無言で頷く樹。やっぱり、永吉には隠し事はできない。
情報通の永吉に、知らない事はない。
「いつ?」
「明後日……」
「明後日? 嘘だろ……。だって、お前そんなの一言も……」
「急だったからね。いつもなんだ。いつも、夏になると転校しなきゃならないんだ……」
夏が来る。夏が来た。
そんな当たり前の事のように、転校も樹にとったら当たり前の事で、慣れていたはずだった。いや、慣れていた。確実に。
「なら、それが分かった時に言ってくれたら……」
「言えなかった……。言えなかったんだ永吉には……」
でも、今回だけはどうしても受け入れたくなかった。
永吉に、〝さようなら〟とか、根拠のない〝またね〟を言うのが嫌だった。
永吉とは、ずっとずっとずっと、一緒にいたかったから。
「ごめんね……」
そんな事を想ってしまった樹は、我慢していた涙を溢れさせてしまう。
今まで涙なんて流した事なかったのに。
全部、永吉のせいだ。
「樹……」
「僕は永吉が……永吉の事が……っ」
好きなんだ。
離れたくないと思うほどに強く。心がコントロールできないほど激しく。
永吉を愛している。
「好きだよ。俺、お前の事」
「え……? ンッ……」
突然、唇に温かな物が触れた。そう思ったら、永吉の顔が近くにあった。
樹は目を閉じる事もできず、固まってしまう。
これは、夢だろうか。それとも……。
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