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第9話 苺味のかき氷よりも

 唇に触れた永吉の唇は、少しだけカサついていた。でも、それがリアルを更に深め、現実なのだと思わせる。 「樹が好きだ……」 「永吉……」 「一目見た時からすげー綺麗な奴だなって思ってた。コイツともっと遊びたい。ずっと一緒にって……思ってた。なのに……」  永吉は樹の両肩を掴んだ。そして、ドサっと樹をベンチに押し倒す。 「えい……きち……?」 「何処にも行くなッ」  永吉は今にも泣きそうな顔でそう言った。その顔を見て、樹は下唇をぎゅっと噛んだ。  そんな事、言ってくれる人今までいなかった。  夏になると消える存在。  だから、友人なんていらないと思ってた。周りと距離を取り、幽霊みたいに生きてきた。 ---そんな人間いたっけ?  そう言われる存在になると最初から諦めていた。なのに、永吉だけは違かった。  海の底にいるような樹を、永吉だけは見付け、手を伸ばして強引に引き上げてくれた。  だから、永吉を好きになれた。  同性とか関係ない。  永吉の素直な優しさや温かさに、樹は恋をしてしまった。 「永吉……」  樹は両腕を伸ばし、永吉の首に巻き付く。そして、ギュッと強くその金髪の頭を抱き締めた。  何処にも行きたくない。永吉とずっと一緒にいたい。 「好き……」  でも……。 「ずっと側にいたかった……」  まだまだ子供の僕等。親の援助無しになんて行きてはいけない。  樹は永吉と共に生きて行く選択なんて最初からないのだと分かっていた。  側に、なんて無理だと分かっていた。 「樹……んっ……」  苺味のかき氷よりも甘いキス。でも、そのキスはさっきよりもしょっぱかった。 「抱いて……」 「!」 「夏が来れば僕を思い出すように、永吉の心に僕を……刻んで……」  忘れられない存在でありたい。  永吉には。永吉にだけは。  樹は震える声と身体で、そう永吉に言った。

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