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第11話
「……っう」
佐山が眠る横で椅子に座り、何をするでもなく携帯を触っていた中、呻くような声が聞こえて携帯を棚に置いた。
眠っていた時間は1時間程だろうか。
見ると佐山が口元を抑えながら上半身を起こす。
肩を震わせており、吐きそうだと思う。
念の為にと近くに置いていたビニール袋を口の前に持っていってやると、佐山は泣きそうな目で首を振った。
「……無理、やだ」
「ほら」
口を懸命に抑える佐山の手首を掴み、そこから離してやる。
背中をさするが、唇をぐっと噛み締めたまま口を開こうとしない。
「吐きなよ。
そうなったらもう吐いたほうが楽だ」
頑なに耐えようとする姿に、今のこいつなら逆流したものを飲み込んででも俺の前で吐くことを我慢するのではないかとさえ思えてくる。
「ちょっと苦しいかも」
「……っ」
俺は佐山の口の中に人差し指と中指を侵入させた。
途端、堪えきれないというように佐山が嘔吐する。
全て水分だ。
内容物がないということはやはり何も口にしていなかったのだろうか。
もう出るものもないのに何度もえずく佐山の背中を撫で続ける。
もし今日追いかけなかったら、今頃佐山は1人だったのだろうか。
いや、もしかしたらこれまでもこういうことはあったのかもしれない。
その度に1人で耐えていたのかもしれないと思うと胸が締め付けられる。
しばらく何も出ないままえずく行為が続きやがてはぁはぁという息遣いと共に少しずつ落ち着いていく。
「手とか口とか拭くもの持ってくるよ」
ビニール袋を回収すると、
佐山はこの世の終わりのような表情をしていた。
「……っごめん、ここ朝霧の家……だよね。
帰る」
「何言ってんのお前は」
キッチンから濡れたタオルを持ってきて渡してやると、項垂れながら手や口元を拭っていた。
「帰れる訳ないでしょ、そんなんで」
「いや……いつものことだから、大丈夫で……」
「はぁ?いつものことならなおさら良くないだろうが」
その時、玄関から鍵の開く音がして、合鍵を持っている父が来てくれたのだと分かる。
メールを見てくれたのだろう。
返信よりも診にきてくれたのはありがたい。
「……誰かきたの?」
不安そうに尋ねる佐山に事情を説明すると、
焦ったように目を少し見開く。
「いや、待って。
そんなのは、迷惑だし、俺、αじゃないし」
「それ何か関係ある?」
「……っだって朝霧の家は、α以外は……!」
「その子がメールの子かな?」
父が寝室を覗く。
仕事を抜け出してきてくれたことが分かる白衣姿。
「そう。仕事中にありがとう」
「近いから全然問題ないよ。
今日はさほど忙しくもないしね。
これは中々……良くなさそうだね」
佐山はまるで悪いことでもしたかのように俯いた。
「……すみません」
何に謝っているのかも分からないが小さくそう口にする。
「謝ることなんか少しもないよ。
喋るのも辛そうだけど、どう?
質問したりもするから、もし答えられそうだったら答えてね」
「……はい」
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