8 / 55

第8話 2章 星夜と名付けて

 青年を保護してから、一週間が過ぎた。  相変わらず自分のことは、名前すら話さないが、気持ちは徐々に落ち着いていると感じられる。そろそろ服を着せても良いだろうと判断する。 「お前の服だ。俺の独断で選んだが、サイズはあっているだろ。好きなのを着るといい」  服を買ってくれたのか? 自分の着ていた服はまだクリーニングなのか? クリーニングとはそれほど時間のかかるものなのか? と思いながらも、受け取る。とりあえずは、今までバスローブ姿だったので、服を着られるのは嬉しい。 「あ、ありがとうございます」  青年は戸惑い気味に応える。そして、渡され服のうちから、一組を選んで着替えた。それは彰吾が青年に一番似合うだろうと思って選んだものだったので、彰吾は嬉しさに顔がほころんだ。 「中々に似合うじゃないか」  彰吾が褒めると、はにかんだ笑顔になり、それがまた可愛いと思う。 「名前はまだ教えてくれないのか?」  だんまり押し黙る。まだ無理か……仕方ない。 「そうか、まだ言いたくないか……だがな、名前が無いのは不便だからな。お前呼びはいいが、おいって言うのは俺が嫌だしな。俺が名前を付けてやる」  無言の青年を見つめて、暫し考える。何か、良い名前はないか……この青年に相応しい名前。 「よしっ! 決めた、星夜だ! お前はこれから星夜だ」  星空の夜に出会った、美しい青年。我ながら、良い名前を思いついた。 「どうだ、嫌か? 嫌なら、本当の名前を教えろ」  青年は首を横に振る。 「嫌じゃないな?」  もう一度念を押すと、頷いた。これで決まった。この時から彰吾は、青年が最初から星夜であったように星夜と呼ぶようになる。  青年が星夜になってから、更に一週間が過ぎる。最初は戸惑い、星夜と呼ばれても、返事をしなかったが、最近は反応するようになる。徐々に自分が星夜と認識しているようで、彰吾にとっては嬉しい傾向だった。  そして、彰吾は気になっていたことを星夜に尋ねる。 「星夜お前は、身の回りのこと全て母親にしてもらっていたのか?」  星夜は、行儀が良く育ちの良さを感じる。しかし、身の回りのことを何もしない。してもらうのに慣れている、そう感じるのだ。母親がよほどの過保護だったのか……それが当初から抱いた疑問だったので、思い切って質したのだった。 「お母さまは……側にはいなかったから……」 「? ……世話係がいたのか?」 「……」  星夜は押し黙る。それ以上は触れられたくないのだろう。しかし、無言は肯定したも同然。世話係のような使用人がいたのだろう。思った以上に相当な上流階級だ。何しろ、『お母さま』だ。さすがに、これにはびっくりする。自慢じゃないが、自分は母親のことをそう呼んだことは一度もない。そんな呼びかけをしたら、母は腰を抜かすだろう。 「そうか、分かった。俺がお前の世話を何もかもしてやれればいいが、仕事へも行くからそうもいかない。少しずつ教えるから、自分のことは自分で出来るようになれ。家事は定期的にハウスキーパーが来るから、自分のことだけでいいからな」  

ともだちにシェアしよう!