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第15話 3章 鳥はどこから来たのか
彰吾と星夜の同居生活は、淡々と過ぎていく。奇妙と言えば奇妙な同居生活。何しろ彰吾は、星夜の本当の名前も、どこから来たかも未だ知らないのだから。
彰吾には、星夜は鳥籠から逃げ出した鳥のように思われた。囚われの籠から逃げた鳥。あの組紐がその証拠だろうと思っている。おそらく、いや確実に星夜は、自分のことを明かせば籠へ連れ戻される、それを恐れているのだろう。
星夜を籠に閉じ込め、組紐で縛めていた人物は、かなりの人物かもしれない。そして、あの組紐はかなりの執着の現われでもある。おそらく先方も必死に星夜の行方を捜しているだろう。下手に動けば危ういことになるだろう。慎重に動かねばと彰吾は思う。
今のところ彰吾は、星夜の存在は誰にも話していない。星夜の事情が分からないうちは、極秘にしなければいけないと思っているからだ。しかし、一人だけ打ち明けて、そして助力を頼もうと考える人がいる。
中学生以来の友人、親友とも言える存在の成瀬朝之。中学高校と一緒に学び、大学も学部は違ったが同じ大学。彰吾が家業とも言うべき医師になったように、成瀬も父親と同じ弁護士になった。
成瀬の父親の弁護士事務所が柏木総合病院の顧問弁護士を請け負っている関係で、成瀬も顧問弁護士の一人でもある。つまり親子二代にわたって、柏木総合病院との関係は深いと言えた。
成瀬だったら、弁護士として守秘義務もあるから、安心して星夜のことを話せる。そして法律面でもアドバイスを求められるのも心強い。
早速彰吾は成瀬に連絡を入れると、翌日近くまで来るからと、ランチを一緒にとることになった。
「ランチにしてはまた大げさな店にしたな」
店は彰吾が予約した。人に聞かれるのは避けたいと、個室のある店を予約したのだ。
「ああ、極秘の話だからな」
「極秘ってなんだよ、さすがに構えるな」
「実は今、ある青年と一緒に暮らしているんだが、その青年に関してお前の助力が欲しいんだ」
「青年って、彼氏か?」
「いや、それはまだというか……」
「なんだよ、煮え切らないな。お前らしくないだろ」
彰吾は、星夜との出会いの経緯を成瀬に説明する。そう、だから個室にしたのだった。
「確かに、複雑と言うか、普通じゃないな。で、惚れてるのか? 凄い美形なんだろ」
「ああ、そうだ、惚れてるんだろうな。ただ、美形だからだけじゃない。まあ、最初それに惹かれたのは確かだが」
「お前が美形って言うんなら、相当な美形なんだろ。というか、話はそこじゃないな。要するにその青年の身元が知りたい、そういうことだろ」
「そうだ。ただ下手に動くとやばい気がする。あいつは、連れ戻されることを恐れている。だから頑なに名前を明かさない。あいつの側にいた男は普通じゃない。しかも、金も力もある、そう思うんだ」
「そうだろうな、貞操帯なんて普通じゃないぞ。相当な執着だ」
彰吾は組紐の件も正直に明かした。相手側の異常が分かるエピソードだからだ。
「その青年、育ちがいいというか、上流階級の感じと言ったな」
「そうだ、何しろ母親のことを咄嗟にお母さまと言ったからな」
「そりゃ相当だ。病院長の御曹司のお前だってそんな呼び方したことないだろう」
「無いよ。熱でもあるのかと思われる」
「確かにな」
「まだある。一人称がわたしだ。俺はもちろん僕とも言わない。そして、車に乗る時、普通に後ろへ乗ろうとした。多分車は、運転手付きだったのだろう」
「益々上流階級だな。相当なお坊ちゃま育ちだぞ」
「成瀬、この件お前に、弁護士としてのお前に正式に依頼したい。だからすべて話したんだ。受けてくれるか?」
「ああ、そうだな。難しい案件ではあるが、とりあえず着手はするよ。弁護士には守秘義務がある。だからこの件は誰にも明かさない。そこは安心しろ」
成瀬なら受けてくれると思った。そして守秘義務がなくとも、誰彼に話す人間ではない。そこは長年の付き合いで信用している。お互い言いたいことを言い合うが、それもまた親友たる所以でもある。
「一度その彼に合わせてくれるか? 直接会って、どう探るか考えたい」
それは彰吾にも理解できた。そして成瀬の眼から見て気付くこともあるかもしれない。しかし、その場をどうセッティングするか……。
「俺がいきなり押しかけるってのはどうだ? 急に来たのは仕方がないから家に入れるって感じで」
そうだな、それだったら星夜も事前に身構えることなく、受け入れざる負えない。それが最善かも……。
「そうだな、それがいいな。そうしよう」
と言うわけで、次の休日の午後成瀬が家に来ることが決まった。
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