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第16話 3章 鳥はどこから来たのか
成瀬が来宅する予定の休日、いつもの休日のように少し遅めに起きて、遅めの朝食というか、ブランチを二人で用意する。星夜は、作ることはまだ出来ないが、野菜を洗ったり、盛り付けたりは出来るようになった。
「おっ、きれいに盛り付けたな! お前は美的センスがあるな」
彰吾が褒めると、星夜は嬉しそうに微笑む。彰吾はほめ上手だ。星夜も褒められると嬉しいし、ちょっとしたことでも、達成感がある。
「さあ食うぞ、十時過ぎてるな、さすがに腹が減った」
二人で準備した食事は美味しい。最近では星夜も残さず食べるようになった。星夜として生きる意欲が湧いてきている。彰吾はそう見ている。いい傾向だ。後は、それをきちんと軌道に乗せること。そのために、今日は成瀬が来る。
食事の後片付けが終わり、彰吾はリビングで論文を読む。星夜が来る前は、書斎で読んでいたが、休日は星夜の側にいたい。星夜も何か読んでいるのかと思い見ると、何か書いている。
「何か書いているのか?」
「なんでもない」
なんでもないことはないだろうと、見に行くとメモ用紙に絵を描いている。きれいな花の絵だ。
「絵を書いているのか。上手いじゃないか」
恥ずかしそうに、描いた絵を隠そうとする。
「お前、絵を描くのが好きなのか?」
「好きって言うか、ちゃんと描いたことはない。こんなふうに落書きするくらいで……」
「じゃあ、描いたらどうだ? 絵の道具を買ってやるぞ」
それは星夜にとって魅力的な申し出だった。絵は好きだ。何度も描きたいと思った。しかし、許されることではなかった。正直欲しい、けれど自分で買うことはできない。彰吾に買ってもらう、それはあまりにも厚かましい。
星夜の無言を、彰吾は遠慮ととらえた。
「スケッチブックと、鉛筆。色は絵の具がいいのか? それとも色鉛筆にするか?」
決定事項のように問うので、星夜も応えた。そうしないと、かってに決めて買うだろう。彰吾はそういう人だ。それくらいは、星夜も分かるようになった。
「それでは色鉛筆をお願いします。全く初心者なので、絵の具はハードルが高いように思います」
決まったら即実行とばかりに、早速彰吾はネットでそれらを注文する。
最初の頃は強引な人だと思ったが、今はその強引さが嬉しい。星夜は絵の道具が届くのを楽しみに思うのだった。
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