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A Knight of the goddess 女神の騎士7
目が覚めて、横たわっている僕のそばに、ダイアナとパトリシアが座っているのが見えた。起きあがろうとして、
「い……っ!?」
胸部に激痛が走る。背中も痛い。それに、めまい。おでこと喉のあたりが異様に熱い。
「目が覚めた? ナオ、貴方熱があるわ」
話すために息を吸うと、喉がからからに渇いていたせいで、咳き込んでしまう。胸部が更に痛み、僕は唸った。
慌ててパティがペットボトルの水を差し出してくれて、僕は上半身を支えられながらのどを潤した。
「ありがと……ごめん。多分、肋骨が何本か、折れちゃってるみたい」
「意識ははっきりしてるね? はあ、アレで頭を打ちつけなかっただけでも上等さね」
「何があったか、思い出せる?」
「ええと、確か、十二時を回って、明け方近くになってから、サバトの会場周りにかけてた結界が無理矢理破られた、だよね? 相手が力任せだったから、僕は反動で吹き飛んだ」
パティが頷く。
結界を破る際、相手はでかいハンマーみたいなのでぶん殴ったのか、僕はそのでかい衝撃を、胸部に思い切り受けてしまったようだった。
「……ごめん、そのあとはもう記憶がない。何が起きたの?」
「私達の認識も似たようなものよ。結界が破壊されて、外から何人か人が入ってきたと思ったら、あっという間に気絶させられたわ。何の準備もしていなかったし」
「気づいたら、ここに移動させられてたってわけさ」
「僕の他に、負傷者は?」
「幸い、サバト参加者の中には貴方レベルの負傷者はいないわね。みんなかすり傷程度よ。ただ、体力のなさそうな人や精神的に混乱してる人もいるから、長時間このままは、まずそうだわ」
「襲撃から、どれくらい時間が経った?」
「分からない」
パティが両肩を軽く上げた。
「時間が分かるもの、腕時計や携帯なんかはみんな奪われてる。場所も……見ての通り、四角くて白い、とても大きな部屋の中だとしか」
「窓がないどころか、扉すらない。昼か夜かも分からないよ。一体どこに連れてこられたんだか」
「そっか、せめて時間経過だけでも判明していれば、どのくらいの範囲まで運ばれた可能性があるか推測できるんだ、けど……っ」
周りを見渡した拍子に、肋骨が痛む。
身体をくの字に折り曲げた僕の耳元で、ダイアナが囁いた。
「お前さん、焼き印の中に回復魔法は入ってたかね?」
僕はダイアナに首を振って答えた。
「僕の焼き印は、結界を発動させる魔法陣と、相手が放った魔法を無効化する魔法陣、それから精を魔力に変換する魔法陣だよ」
「ああ、回復魔法の魔法陣も入れとくべきだったねえ」
本当にそうだ。
いまのところ、焼き印のどれも役に立っていない。結界が破られる前には侵入者が来ることに気づいていなくて魔法の無効化はできなかったし、そもそも物理の可能性もあるし。結界に攻撃された反動を受けてすぐに吹き飛んで気を失ったから、結界の発動なんて間に合うわけがなかった。
性魔法に至っては、新太がいない。
新太。
僕はぼんやりと、いつもより冷たい自分の手を見る。
意識を向ければいつも、新太の熱くて力強い手の感覚を感じられるのに。
「ねえ、魔女の傷は魔女の騎士 に飛ぶのではなかったの? いまのところ、その気配が無さそうね」
「だよねえ」
パティにうっかり、へへっと笑ってしまって、痛みで再び身体を丸める。
「っ……たぶん、この部屋に、かなり多めに結界を張られてるか、めちゃくちゃ強力な結界を張られてるかのどっちかだと思う。新太の気配すら感じられなくなってるんだ。
傷が飛ぶのも、遮断されてるんだと思う。
でも、こんなのが飛んで行って、新太が負傷しながら僕の心配しちゃうよりはマシだよ。
僕ら自身がどこにいるのか分からないのなら、新太はもっと分からないだろうし、ただひたすら心配だけかけちゃうことになるだろうから」
そろそろと、肋骨に気をつけながら周りを見渡す。
周りでは、壁の様子を探っている人達がいる。
手を当てている人、何らかの魔法で、光の玉を当てている人。
少し離れたところで、小さな爆発が起こった。
そういえば、どの人も見たことのない顔だ。しかも、爆発?
「ねえ、もしかして、魔女以外の人もいる?」
「そうね。サバトに参加してたメンバー以外も混じってるわ。他のところからここに連れてこられたって。魔術師や呪術師が多いわね」
「他のところって、どこ?」
「ロンドンにいたらしいわ。一ヶ所ではなく、複数、バラバラに。ここいる大半がそういう人達よ」
僕らがいた場所とは、ずいぶん離れている。
「UKの各地から、ってことではなく?」
「サバトのメンバーのみスコットランド。あとはロンドンばかりよ」
「全部で何人くらいいる?」
「そうね、私達を含めて三百、いるかいないか、くらいかしら」
「そんなに……ねえ、あの人達に、部屋の酸素が足りなくなるかもしれないから程々にって伝えて」
「もう言ったわ。そうしたら彼等、『空気の循環は確認できているから、酸素については心配ない』だそうよ」
「窓も扉も、通気口みたいなものも見当たらないのに?」
パティと話している間、僕の横でダイアナが、石の粉の入った袋とナイフを取り出し、床に傷をつけながら魔法陣の準備をしていた。白い綺麗な床に容赦なく傷をつけるとか、さすがダイアナ。
袋の中身を掴んで床に落とそうとしたので、僕はその手を掴んで止めた。
「ダイアナありがとう、ここまででいいよ。魔力出力と詠いは自分でやる。石の粉はまだ取っておいて。僕、なんだかいつもより魔力量が多そうな感覚があるし」
「すまないね。他に備えがなくて、できることといったら痛み止めの詠いくらいしか」
「ううん、石の粉とナイフがあるだけでも上等だよ」
「セバス?」
『はい、ここに』
「影?」
『はい。状況が把握できませんし、省エネという意味合いからも、猫の姿を現すのは控えようかと思いまして』
「賢明な判断だね、ありがとう。しばらくそのままでお願い。ちなみに、外には出られるか試してみた?」
『試しましたが、やはり出られませんね』
「外に……どうにかして、新太に状況を伝えられない?」
『難しいです』
「だよね」
ふと、思い返す。そういえば、どうしてダイアナはナイフと石の粉を取り上げられなかったのだろう。ロンドンにいたという人達も、杖を持っていた。
僕は上着の内ポケットを探る。僕の杖もある。
捕まえたのに、どうして反撃の手段を与えているのだろう?
それに、これだけの人数の魔法使いがいれば、そのうち結界の解除に成功する者が現れる可能性だって出てくるだろう。
時計や携帯は奪ったのに。
意味がわからない。
僕は頭を振り、魔法陣の上に手を置いて、詠いを始めた。
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