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A Knight of the goddess 女神の騎士11
時間が経つにつれ、状況は刻々と悪くなってきていた。
たまに痺れを切らした魔法使いが、ボーフォート側の魔法使いを単独で狙って倒したりはしているけれど、基本的に無効化の魔法しか使っていないので、向こう側の人数はそんなに減っていない。
ちなみにボーフォートは、自身に別個の結界もしくは守護するものでも身につけているのか、魔法攻撃は全く当たらなかった。
対してこちら側の魔法使い達は、魔力切れを起こしたり負傷して、戦線離脱している者が増えてきていた。
結界もいくつか破壊され、その衝撃で吹き飛ばされた人もまあまあいた。
僕の近くに来てくれていた魔法使い達も、魔力切れを起こしたか、手薄になった場所に移動して、いつの間にかばらばらになっていた。
「もうダメだわ、わたしたち死んじゃうのよ! 予知で見た通りに!」
真ん中あたりにいる誰かが叫ぶ。
この状態になっても、僕は怖さを感じなかった。あの事件の後、明け方のグラント家の庭で新太と僕らの終わりの話をした時の方が、何倍も、何十倍も怖かった。
でも、
「ははは、さすがに、これは……」
笑っている場合じゃないのに、笑いが出る。
僕自身、肋骨の痛みがだんだんとぶり返している。それに、指先が冷たくなっているのを感じる。見ると、小刻みに震えていた。魔力切れが近いのか。
「全く無駄なことをする。どうせ助からんのだから、存分に暴れればいいものを」
ボーフォートがまた何か言っている。
「もっと暴れないと、貴様らの命もその分短くなるぞ? 貴様らの利用価値が無くなったら、殺して良いと言われているからな、集団自決を装って」
くくく、と心底楽しそうに笑う。
「ちなみにどうやって死ぬのか知りたいか?
毒殺だ。結界の中に、毒を流し込む。できる限り苦しんだ表情で死ぬように、量を調整しながらな。
残念ながら私の魔法ではないが、かつては貴族階級だった名のある呪術師から方法を授かった、由緒正しい魔法だ。魔法陣は設置済み。
貴様らがここから出られることはない。毒で死ぬのは確定だ。であれば、せいぜいあがくがいい」
安い挑発だ、と思った。密閉空間ならまだしも、ここには空気の循環がある。ここにいる全員に対して毒の魔法を行うならば、それ相応に長い詠唱も必要だろう。その最中にボーフォートをぶちのめせばいいだけの話だ。
「もうどうせ、死ぬしかないのなら……」
僕の後ろで倒れていた魔法使いの何人かが、ふらふらになりながらも立ち上がった。それぞれ手を繋ぎ、一番前の魔法使いが、杖をボーフォートへ差し向ける。
「ダメだよ、口車に乗らないで!」
彼らは僕を無視し、詠唱は止まらない。
「周りを破壊しちゃダメ! 自暴自棄にならないで、落ち着いて」
僕は彼らの魔法を相殺するために杖を差し向けようと腕を上げて、しかし痺れて動かないことを自覚した。
まさかここで、魔力 切れ?
「う、そ」
いや違う、多分予祝が途切れたんだ。
落ち着いて、魔力は……うん、まだある、でも、残り僅か。
このままでは、
「新、太……きて」
もうどうにもならない。
僕だけでは無理だ。
「助けて、新太ーーー!!!」
ピイィィィィィ、という鋭い音が鳴り響く。
「……鳥の鳴き声?」
「一体何?」
「この声、鷹よ! きっとアズキだわ」
いつの間にか隣に来ていたパトリシアが言った。
「天井?」
「いや、真上は……!」
誰かが上を指差す。そこには、空があった。
「嘘……」
「外なの?」
はっとして、周囲を見渡す。
不自然に空いていた真ん中辺りには階段と大きな銅像が、目の前には大きな柵がありその向こうには大きな建物。
どちらもボロボロに崩れていた。
「信じられない、ここってまさか!」
「バッキンガム宮殿の前だ!!」
僕らは呆然と、その惨状を見た。
外からソプラノの綺麗な歌声がかすかに聞こえてくる。
「ああ、あの子の声よ、スーザンが詠っている! 目覚ましの詠いだわ!」
パトリシアが叫んだ。
探ると、間違いなくスーザンの魔力の気配がした。
「見えたからといって、どうする? こちら側の結界がある限り、貴様らはここから出られんぞ!?」
ボーフォートが叫んだ。
「さあどうした、もっと暴れろ! 宮殿を壊せ! でなければ死ね!」
『させるもんか!』
『ピイィィィィィ!』
スーの声と共に、大音量で、鷹が鳴く。
同時に、馬の蹄の音が近づいてきた。
馬はボーフォート側の魔法使い達を器用に避け、結界の全てを難なくすり抜けて僕の元へと走ってくる。
馬が強い光に包まれた、と思ったら、
「新太!?」
そこには新太が立っていた。
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