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第4話

給食の時間を抜け出し屋上で過ごすことも増えた。 コンビニで買ったパンを悠生と食べる方がうんと美味しい。 透明人間は楽だ。 教室にいなくても呼び出されることはない。 便利だ。 いなくても、“居る”扱い。 本当に都合が良い。 そうして過ごしてる間に季節はいつしか秋へとかわった。 本格的に受験に目を向ける季節だ。 「なぁ、悠生。 ここの問題分かる?」 「あー、ここはさ、まずこっちを計算すんだよ。 で、次にここ」 「こっちか。 助かる」 「志望校、決まった?」 「ん。 この学校の奴らが受験しないところ。 まだ創立されて新しいんだけど、良いなって思ってたところだから頑張りたい」 受験があるから学校に来ることも頑張れた。 だけど、今はもう少しこの学校にいたい。 悠生と沢山話していたい。 そんなことを思うようになっていた。 「悠生は、志望校決まった?」 「俺は、まぁ…」 「どこ?」 「秘密。 落ちたら格好付かないだろ」 「俺は言ったのに?」 「まぁまぁ。 追々な」 他の奴からが教室で繰り広げる青春を、俺達は屋上で広げた。 楽しい日々。 ほんの少しだけ、このまま時間が停まれば良いのにと思った。 そんなある日、俺達はキスをした。 なんのきっかけもなく、ただ突然に。 ホルモンバランスのせいだ。 中高生にはよくあることだ。 ネットに書かれるそんな上部だけの言葉より、このキスの方がずっと現実だ。 太陽光を浴びて、あたたまった唇は生々しいほどやわらかく、そして気持ちが良い。 俺は、悠生が好きだ。 大切にしたい気持ちが出来た。 「日向…ごめんな、」 なのに、なにがごめんなんだろう。 そう口にしたいのに、寂しそうな笑顔にそれ以上踏み込めなかった。

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