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[12] 葉書

 レオネのバラルディ家での生活はとても穏やかだった。  執事のドナートは最初の印象どおり優しく、丁寧にバラルディ家のあれこれを教えてくれた。  メイドのマルタの作る料理はドナートが言う通りどれも美味しく毎食が楽しみになった。土地が変わるので食材や調理方法も異なりそれだけでも目新しいくワクワクする。  もう一人のメイドのソニアは十七歳だそうで、レオネは若い娘と何か間違いがあっては、と思いあまり近づかないようにしているが、ソニアは明るく気さくに話しかけてきてくれる。  庭師の二人とはまだあまり話す機会が無いのだか、どこかで薔薇について是非話したいと思っている。  レオネがバラルディ家に移り一ヶ月が過ぎようとしていた頃、兄エドガルドから小包が届いた。中身はほとんどが伯爵領ロッカについての書類だ。報告書などの書類を定期的に送ると言われていたので今回がその第一便となる。  書類の他には地元の菓子なども一緒に入っていた。たった一ヶ月しか経ってないのに懐かしさがこみ上げる。  その中に一枚の葉書があった。  宛先は癖のある字で『ロトロ領 レオネ・ロレンツ・ブランディーニ様』とだけ書かれており、住所の記載が無い。よくこれで届いたなと思ったが、まあ地元の郵便局ならレオネの名前だけでわかったのだろう。そして差出人名は書かれていない。  裏返すと夜の浜辺らしき風景が描かれていた。墨線だけ版画で写し、後から手で色付けした土産用の絵葉書のようだ。絵の中の夜空には三日月と星が輝き海にもそれが映っている。浜辺には椰子の木が生えているので南国のようだ。波の穏やかな美しく暖かそうな夜の海。  浜辺の白っぽい部分に宛名書き同様に癖のある字で走り書きがあった。 『渡り鳥は三月には故郷に戻る。g. 』  レオネの心臓が大きく鳴り始める。  差出人が無い段階で誰なのかと頭を巡らせると浮かんでくるのはあの愛しい人の事ばかり。だが、この走り書きを見て確信した。 (ジェラルド……!)  ずっと音沙汰がなくて不安だった。  もしかしたらあの日会ったのは『ジェラルド・バラルディ』を名乗る別の者だったのでは無いか等と考えたりもした。その疑いは経済新聞に載るジェラルドの顔写真を見て晴れたのだが。  葉書を再度確認すると消印は十二月だった。遠い異国から届く時間と、ブランディーニ家からの荷物に乗るまでと、かなり時間がかかったようだ。さらに言えばジェラルドはレオネがいつバラルディ邸に入るかは把握してなく、ブランディーニ家の方へ送ってしまったと思われる。  季節は二月半ば。  あと少しでジェラルドが帰って来る。

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