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[20] 自室
ロッカ平原での視察を終えそのまま帰路に就いたが、サルヴィへ到着したのは夜九時を過ぎていた。
「お帰りなさいませ。お疲れ様でございました」
留守を預かっていたマルタとソニアが出迎えてくれる。
ウーゴと共に荷物を運んでいたドナートが思い出したようにメイド二人に言った。
「レオネ様のお部屋は完成しましたか?」
「はい。ご指示通りに」
マルタがニコニコと答える。
はて、部屋とは?と思いレオネはドナートを見た。
「ずっとゲストルームと言うのもおかしいので、ジェラルド様の指示でレオネ様のお部屋をご用意致しました。荷物はそちらにお持ち致しますね。ジェラルド様もご確認ください」
一泊二日の帰省の間にレオネ専用の部屋を用意してくれらしい。部屋に向かう廊下でソニアが嬉しそうに言ってきた。
「あの、カーテンとか家具とか、私とマルタさんで選んだんです。結構いい感じになったと思うんですけど、まだ交換できるんで気に入らなかったら言ってくださいね!」
「楽しみだなぁ」
レオネの部屋は屋敷一階の南東端だった。
「どうぞ、お入りください」
ドナートが扉を開けてレオネを招き入れた。
入ってすぐの書斎スペースは前のゲストルームより二倍は広かった。床や家具は艷やかな赤茶のニスで仕上げられ、カーテンや応接用のソファなどは深緑だ。窓も格子が美しく執務の合間に外を眺めるに丁度いい大きさだ。
「広い! こんな大きいお部屋をよろしいのですか?」
レオネは思わずジェラルドを見た。ジェラルドは「もちろんだ」と言って微笑む。
壁一面には空の書棚があり、かなりの量の本が入れられそうだった。
「まだお荷物はゲストルームにございますので、明日以降お運びいたしますね」
ドナートが言った。勝手に荷物を触るのは良くないと思ってくれたようだ。
「ささ、こちらが寝室でございます」
今度はマルタがレオネ達を招く。
「ソニアが気合を入れて選んだのですが、いかがでしょう?」
寝室に一歩踏み入れて少し驚いた。書斎とは別世界だったからだ。広さはやはり元のゲストルームより広く、バスルームも付いていた。問題はその雰囲気だ。壁は真っ白で、キャビネットやクローゼットなどの家具も白かクリーム色。床は辛うじて木製だが淡い白木が艷やかに光っている。縦長の大きな窓が五箇所つけられており、今は暗くて見えないが庭が一望できそうだ。その窓に下げられたカーテンは淡い若草色で、小さな白いバラが裾にそって刺繍されていた。寝具もほぼ白で、上掛けの裾にはレースがあしらわれ、金色の支柱で囲まれた天蓋が付いている。天蓋の支柱は同じく金の蔓薔薇 の彫刻が施され、たっぷりと白いレースが幾重にも掛けられていた。
(これは……なんと言うか……)
「ちょっと……可愛すぎないか?」
レオネが呆気にとられていると、ジェラルドが言ってしまった。そう、とても可愛いのだ。まるで物語のお姫様や王子様が眠るようなそんな部屋だ。
「だ、ダメでしょうか……!」
ソニアが真っ赤な顔をして慌てている。
「外商の方が交換は無料ですると言っておりましたので……お気に召さなければなんなりと……」
声が段々と小さくなるソニアに、レオネは笑顔で言った。
「いや、ソニア。とても良いよ」
どうせ一人で寝るだけの部屋だ。灯りを消してしまえば色などどうでもいいし、特にこだわりも無い。流石に全部ピンクだったらやり直してもらうとは思うが、そこまで悪くはない。
レオネの言葉にソニアの顔が明るくなる。
「良かった……あの、レオネ様のイメージでまとめたんです」
ソニアにとってレオネは物語に出てくる王子様のような存在らしい。すると、ジェラルドがボソッと言った。
「確かに……、レオネに似合っているが……」
そう言われたことにレオネは気恥ずかしさを感じた。
「上に二階部分がないお部屋で、元から天井も高く窓が大きいので、陽当りもよいです。お庭へも直接出られますよ」
ドナートが解説してくれた。
「ジェラルド、それから皆さん、こんなにも素敵な部屋を用意して頂いてありがとうございます。とても嬉しいです」
レオネは久しぶりに地元への帰省だったが色々な事が重なり自信を無くしていた。だがバラルディ家の人々は皆レオネをバラルディ家の一員として扱ってくれている。この期待に背くような事は出来ないとレオネは改めて思った。
「じゃあ、私はそろそろ休むよ。レオネも疲れたろう。ゆっくりおやすみ」
ジェラルドがそう言うとドナートとソニアもそれに続き退出して行った。マルタもまたレオネにバスルームの使い方を教えて、寝る支度を整えると出ていった。
今までのゲストルームより遥かに広くなった自室に一人残される。シャワーを浴び、ローブ一枚で天蓋付きの真っ白なベッドに転がった。なんだかどっと疲れが出ると同時に途端に淋しくなった。
(こんなに広いベッド、一人は淋しいよ……)
二日間、ジェラルドとこんなに長く一緒にいたのは初めてだった。移動の車内での近さには戸惑ったし、彼の妻と言う地位に見合っていないことも痛感させられた二日だった。さらにジェラルドから出された『ロッカ平原の住民をどうするか』と言う課題。これは魂をかけて取り組まなくてはいけない問題だ。
(ジェラルドに認められたい……!)
ジェラルドの鋭い眼光と優しい眼差しの両方が浮かんでくる。真面目なことを考えていたはずなのにジェラルドを思い浮かべると途端に身体の芯が熱くなってしまった。
(どうしよう……)
新しく用意してもらった部屋で初日からそれを汚すような行為に躊躇 いがある。だが疲れているはずなのに熱は徐々に膨張してくるようで、このまま眠ることは無理だと思った。
レオネは身を起こしローブの裾から脚の間に手を伸ばし堅くなり始めている自身の中心を握りしめる。
「……はぁ」
溜息のように深呼吸のように息を吐く。
ゆるゆるとそこを擦るが、それだけでは達することは出来ないともう分かっている。
ローブの合わせから胸へと手を入れ、突起に指を乗せる。そこはぷっくりと勃ちあがり指の腹で揉むとザワザワとした快楽が脳を焦がしてくる。
「んっ……」
指で揉むだけでは足りなくて今度は摘んで強めにコリコリと摘み転がす。それと同時に脚の間のモノも扱く。
「んんっ……はぁ……」
いつも思う。二本の腕では足りないのだ。欲望と快感は身体の奥にぐるぐる渦巻くのだがそれを吐き出すのが一苦労だ。両胸の突起を交互に慰めるがやはり両方同時に攻められたい。さらにもう一箇所刺激が欲しい場所がある。
胸を弄っていた指を口に含みたっぷりと濡らす。その指を背中側から尻へ持っていき、双丘の奥に潜む蕾を撫でる。
ローブがはだけ、勃ち上がった両方の胸と飾りや、扱かれ続けるペニスが空気に晒される。
さらに中指を奥へと挿入していく。
「んあっ……」
こんな真っ白な汚れない空間で髪を振り乱し自慰に耽ることに背徳感が押し寄せる。だがもうこの熱は自分自身で鎮めるしかないのだ。
ジェラルドに出会ってから女性を抱くことが出来なくなり、ジェラルドが帰国するまでと思い、なんとか自分自身でなだめてきた。しかしバラルディ本邸へ越してからはなんとなく慣れない家で自分を慰めることも憚られ、何度となく朝下着を汚してしまい、自室のバスルームで洗いランドリールームにこっそり投げ込んできた。マルタあたりには気付かれている気がする。
なんとか一人で持ち堪えて来た若い性欲も、ジェラルドが帰国までだと思っていたからこそ耐えられた気がする。その希望はあっさりと初日に打ち砕かれ、この無限に続くと思われる孤独な戦いに出口が見えずレオネは途方に暮れていた。
「あぁ……ジェラルドぉ……」
つい、愛しい人の名前を唇に乗せてしまう。
後ろと前の両方の刺激と、あの初めての夜の記憶をなぞり快楽を追う。
「んっ……」
あの夜、ジェラルドの指が捕らえた強い快感にを起こす場所を探る。
「あっ!……んっ!ん!」
広い屋敷と言えど声を出来るだけ殺す。でも時々耐えきれなかったものが溢れてしまう。
いよいよ絶頂を極めそうになり、前を刺激する手が速まり、先走りで漏れたものがくちゅくちゅと卑猥な水音を立てた。
「……んっっ!」
レオネの中心から勢いよく白濁の露が吹き出した。レオネは飛ばないように手でそれを受け止めた。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
射精と同時に頭が冷えていく。自分の呼吸音がが広いベッドに響く。レオネは身を起こし自身の身体を見る。真っ白なベッドの中央に殆ど全裸のような状態で自分の精液に汚れた己の姿。なんて情けなく虚しいのだろう。
「はぁー……」
レオネは大きく溜息を付いて再びバスルームへと入った。
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