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執事1
ロトロ訪問から帰った翌朝。
レオネは陽の射し込む明るいダイニングで一人朝食を食べていた。
今朝は八時頃まで寝てしまい、ドナートに声をかけられて目を覚ました。時刻はもうすぐ九時。ジェラルドはとっくに仕事に出たそうだ。
二十人は座れそうな広いダイニングテーブルの窓際の一席がここに来てからのレオネの食事場所だ。食事は大抵一人。たまにジルベルタやロランドが来れば昼食やお茶を一緒にすることもあるが。
いつもドナートやマルタが世話をしてくれるので完全に一人という訳ではないのだが、やはり使用人と言う立場上同じテーブルで食事をすることは無い。
一昨日のブランディーニ家での夕食は全員揃って総勢十名。朝食でも五、六名。使用人達も含めるととても賑やかだった。そしてレオネの隣には常にジェラルドがいた。
「レオネ様、お口に合いませんか?」
パンを小さくちぎって口に運んでいたレオネにドナートが声をかけた。無表情でただ作業しているだけのような食事が気になったようだ。
「あ……いえ、美味しいですよ」
レオネはハッとして笑顔を浮かべて答えた。
「二日間、ずっと車に揺られてましたからお疲れでしょう」
「いえ、本当に大丈夫です。……ただ」
「ただ?」
「二日間、皆さん一緒に居てくださったので、なんかちょっと淋しくて……」
「レオネ様……」
ドナートはレオネのジェラルドに対する気持ちを分かっている。レオネが言う淋しいは『ジェラルドが居なくて淋しい』なのだ。
「いい年して何を言ってるんですかね」
レオネは恥ずかしくなり苦笑を浮かべた。
「レオネ様、ジェラルド様は夕食はかなり不規則なのですが、出張が無い限り朝食は決まった時間に取られています。朝食だけレオネ様もご一緒にしたら良いのではと私から申してみましょうか」
ドナートは真剣な表情でそう提案してきた。
「で、ですが……私がそのような要求をしているとジェラルドに知られたら……」
(恥ずかしいし、断られたら辛い)
頬にフワァっと熱が登る。
俯くレオネにドナートが優しく付け加えた。
「あくまで私からの助言としてお伝えいたしますよ」
「ありがとうございます」
なんとかしてくれようとするドナートの気持ちが嬉しく、レオネは微笑みながら礼を伝えた。
その日の夜、ドナートがジェラルドから朝食同席の了承を得たとレオネに報告に来た。
「ドナート! ありがとう!」
レオネは思わずドナートに抱きついた。
「いえいえ、とんでもございません」
ドナートは優しく笑う。
「では、朝食は七時です。六時半前にはマルタが起こしに参りますので」
「あれ、ドナートではないのですか?」
この屋敷に来てからはドナートが朝の世話をしてくれていた。
「ちょうどジェラルド様のご用意と同じ時刻になりますので」
「ああ、そうですね」
「私はレオネ様のお世話をさせて頂きたかったんでけどねっ」
ドナートが珍しく愚痴る。ジェラルドは信頼できるドナートをレオネに譲る気にはならなかったのだろうとレオネは思った。
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