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自室1
ロッカ平原での視察を終えそのまま帰路に就いたが、サルヴィへ到着したのは夜九時を過ぎた頃だった。
「お帰りなさいませ。お疲れ様でございました」
留守を預かっていたマルタとソニアが出迎えてくれ、ウーゴと共に荷物を運んでいたドナートが思い出したようにメイド二人に尋ねた。
「レオネ様のお部屋は完成しましたか?」
「はい。ご指示通りに」
マルタがニコニコと答える。
はて、部屋とは? と思いレオネはドナートを見た。
「ずっとゲストルームと言うのもおかしいので、ジェラルド様の指示でレオネ様のお部屋をご用意いたしました。荷物はそちらにお持ちいたしますね。ジェラルド様もご確認ください」
一泊二日の帰省の間にレオネ専用の部屋を用意してくれらしい。部屋に向かう廊下でソニアが嬉しそうに報告してきた。
「あの、カーテンとか家具は、私とマルタさんで選んだんです。結構いい感じになったと思うんですけど、まだ交換できるんで気に入らなかったら言ってくださいね!」
「楽しみだなぁ」
レオネの部屋は屋敷一階の南東端だった。
「どうぞ、お入りください」
ドナートが扉を開けてレオネを招き入れた。
入ってすぐの書斎スペースは前のゲストルームより二倍は広かった。床や家具は艷やかな赤茶のニスで仕上げられ、カーテンや応接用のソファなどは深緑だ。壁一面には空の書棚があり、かなりの量の本が入れられそうだった。
「こんな大きいお部屋! よろしいのですか?」
レオネは思わずジェラルドを見た。ジェラルドは「もちろんだ」と言って微笑む。
「まだお荷物はゲストルームにございますので、明日以降お運びいたしますね」
ドナートは勝手に荷物を触るのは良くないと思ってくれたようだ。
「ささ、こちらが寝室でございます」
今度はマルタがレオネ達を招く。
「ソニアが気合を入れて選んだのですが、いかがでしょう?」
寝室に一歩踏み入れて驚いた。書斎とは別世界だったからだ。
広さはやはり元のゲストルームより広く、バスルームも付いていた。問題はその雰囲気だ。壁は真っ白で、家具も白かクリーム色。床は辛うじて木製だが淡い白木が艷やかに光っている。縦長の大きな窓が五箇所つけられており、今は暗くて見えないが庭が一望できそうだ。その窓に下げられたカーテンは淡い若草色で、小さな白いバラが刺繍されていた。寝具もほぼ白で、上掛けの裾にはレースがあしらわれ、ツル薔薇の彫刻が施された金色の天蓋が付いている。
(これは……なんと言うか……)
「ちょっと……可愛すぎないか?」
レオネが呆気にとられていると、ジェラルドが言ってしまった。そう、とても可愛いのだ。まるで物語のお姫様が眠るようなそんな部屋だ。
「だ、ダメでしょうか……!」
ソニアが真っ赤な顔をして慌てている。
「外商の方が交換は無料ですると言っておりましたので……お気に召さなければなんなりと……」
声が段々と小さくなるソニアに、レオネは笑顔で言った。
「いや、ソニア。とても良いよ」
どうせ一人で寝るだけの部屋だ。特にこだわりも無いし、やり直させるほど悪くはない。
レオネの言葉にソニアの顔が明るくなる。
「良かった……あの、レオネ様のイメージでまとめたんです!」
ソニアにとってレオネは物語に出てくる王子様のような存在らしい。すると、ジェラルドがボソッと呟いた。
「確かに……レオネに似合っているが……」
そう言われたことにレオネは気恥ずかしさを感じた。
「上に二階部分がないお部屋で、元から天井も高く窓が大きいので、陽当りもよいです。お庭へも直接出られますよ」
ドナートが解説してくれた。
「ジェラルド、それから皆さん。こんなにも素敵な部屋を用意して頂いてありがとうございます。とても嬉しいです」
レオネは久しぶりに地元への帰省だったが色々な事が重なり少々自信を無くしていた。だがバラルディ家の人々は皆レオネをバラルディ家の一員として扱ってくれている。この期待に背くような事は出来ないとレオネは改めて思った。
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