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夜会2

 一人壁際でレオネの踊る姿を眺めていると、また声をかけられた。 「ジェラルド様」  今度は誰だ?と思い振り返るとそこにはレオネの兄、エドガルドがいた。 「エドガルド様、いらっしゃっていたのですね」 「お久しぶりです。レオネは……」  視線でエドガルドに弟の居場所を知らせるとエドガルドは「まったくあいつは……」と顔をしかめた。 「あの……ロッカで負傷されたと聞きました。もう大丈夫なのですか」  エドガルドが心配そうに聞いてくる。  やはりブリアトーレ村長含め、ロッカの住民たちは強くブランディーニ家と繋がっているらしい。良い事も悪い事も逐一報告が行くようだ。 「ええ、大したことは無かったんですよ。翌日には通常通りでしたから」 「……レオネを庇ってくださったと聞きました。ありがとうございます」  エドガルドは丁寧に頭を下げ礼を述べてきた。 「いや、私がちゃんと避けられれば良かったのですが、レオネには余計な心配をかけてしまいました」 「心配くらい当然ですよ。本当大事に至らなくて良かったです」  エドガルドはそれから思い出したかのように話を続けた。 「それとロッカ売却の件、レオネから聞きました。父とも相談しまして、前向きにお受けしたいと考えております」  望んでいた通りの回答にジェラルドはほっとした。 「そうですか。それはレオネも喜びます。聞いているかもしれませんが、あの案はレオネの発案なんです」  ジェラルドの言葉にエドガルドは目を見開いた。 「レオネがですか?」  エドガルドは知らなかったようだ。レオネは逆に必要最低限な事しか実家には報告してないようだ。 「ええ、私は課題を出しただけなんです。レオネは私の期待以上に優秀ですよ。今後もっと事業に関わらせようと思っています」  ジェラルドかそう言うとエドガルドは静かに語り始めた。 「ジェラルド様、実は私は……そちらから縁談が来た時、家族の中で唯一反対しました」  弟が十五も年上の男に嫁ぐと聞いたら当然反対するだろうとジェラルドには理解できた。 「でも結果としてレオネはロトロに居た時より生き生きとしています。ブランディーニ家ではレオネの価値は見た目だけだったが、ジェラルド様はレオネ自身の価値を引き出してくださっている。兄としてこれほど嬉しいことはありません」  エドガルドはレオネによく似た目でまっすぐにジェラルドを見てそう告げた。 「しかし……我が弟ながらあの見た目は少々厄介ですね。もう身を固めたのでそれ程人を惹き付ける必要は無いのですが……」  苦笑するエドガルドの視線の先に女性に群がられているレオネが居た。二人目と踊り終えた所、『次は私と!』と十人くらいに囲まれている。レオネ自身は苦笑いでなんとか切り抜けようとしているが人数の多さとご婦人達の気迫で切り抜けられないようだ。 「失礼、助けてきます」  ジェラルドも苦笑しながらエドガルドにそう告げるとエドガルドは「弟をどうぞよろしくお願いします」と丁寧に頭を下げてきた。  ジェラルドは人混みをかき分けつつレオネを取り囲む女性達に声をかけた。 「お嬢さん方、申し訳ありませんがそろそろ妻を返して頂けますか」  丁寧に貴族風にお辞儀する。女性達はきゃあきゃあ言いながら道を開けた。人垣の合間から燕尾服姿のレオネが見える。色とりどりに着飾った花のような女性達の中であっても一際輝いて見える。 「レオネ、おいで」  手を差し出しそう言うとレオネはふわりと可愛らしい笑顔を花開かせジェラルドの手を取った。ジェラルドは周りの女性達に見せつけるようにそっとレオネの腰に手を回し引き寄せた。 「まだ踊りたかったか?」  耳元でそっと囁くとレオネは頬を染めた。 「いえ、抜け出せなくて困っていたので助かりました」  そんなジェラルドとレオネの様子を見て女性達は増々甲高い声で騒いでいた。

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