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[37] 小屋
どれくらい時間が経っただろうか。レオネは深い沼から浮き上がるように目を覚ました。
視界に映る景色は夜のようにうす暗く、天井から下げられたランプがオレンジの弱い光を放っていた。
頭が重く鈍痛もするし、腹の底から這い上がる吐き気もある。身体は重く動かす事ができない。ここが何処なのか、何をしていたのか、寝起きのようにぼんやりとした頭を動かし思い出そうとする。
「あ……、気がついた? よ、予想より早いなぁ」
視界に男が入ってきた。レオネの顔を覗き込んで声をかける。
「ジャン……?」
ランプの逆光で顔がよく見えないが雰囲気と声で予測する。
「レ、レオネはお酒強いもんね……。やっぱり薬も効きにくいんだなぁ」
ジャンがやけに馴れ馴れしく話してくる。しかも顔が近い。
「やっぱりさぁ、寝顔もいいけど反応無いのもつまんないし……。起きてくれて良かったよ」
ジャンはそう言ってレオネの胸辺りに頭を沈ませるとぬろっとそこを舐めた。
「ひっ……!」
素肌に直接感じた舌の感触に驚き声を上げる。
頭を上げて己の状況を確認し愕然とした。
シャツ一枚以外全て脱がされ、動けないように縛られていた。藁束に寝かされた状態で両手は頭上で手首を縛られて何処かに綴りつけられているようだ。右足は足首を、左足は折り曲げた状態で腿 と脛 をまとめて白い布で括られ小屋の柱に固定されている。一枚だけまとったシャツも前を全て開かれた状態だ。大きく開かされた足の間にはジャンが居座り、レオネの胸を舐め回していた。
「ジャン……やめろ。今すぐほどけ」
レオネは怒りを込めて低い声で唸り言った。
ジャンはチュパッとわざと音を立てて乳首を吸い上げ、興奮した顔を上げニヤリと笑った。
「レオネ……、大丈夫だよ。気持ちよくしてあげるから」
ザワワワワッと悪寒が走る。
(こんな奴に好き勝手されるなんて冗談じゃない!)
レオネは大きく息を吸った。
「誰かっ!!」
「わっ、ダメだよっ!」
大声で人を呼ぼうと叫んだがその瞬間、ジャンはレオネの口に布を突っ込み、そのまま縛ってきた。
「んーっ!んんんんーっ!!」
口を塞がれても力いっぱい叫んでみる。だが、とても母屋まで届くような声量にはならない。
「もぅ……、誰か来たらどうするの? こんな姿見られていいの?」
ジャンがレオネの顔を撫でながら言う。この状況に比べればドナート達に裸を見られるくらいどうと言う事は無い。レオネは頭を振りジャンの手から逃れつつジャンを思い切り睨んだ。
「そんなに怖がらないで……。き、気持ちよくしてあげたいだけなんだ。君を縛る布も肌を傷めないように木綿のシーツを割いて作ったんだよ。ちゃんと、オ、オイルも用意したし、安心して僕に身を任せてよ」
ジャンはオイルが入っているらしい小瓶をレオネに見せてきた。何に使うのか予測出来てしまいレオネは恐怖に襲われた。
ジャンは小瓶のコルク栓を抜き手のひらにオイルを垂らし、それをレオネの股の間に塗りつけた。レオネは籠もった唸り声をあげる。
「はぁ……、レオネのいやらしい部分も丸見えだよ……」
ジャンは尻の合間にオイルを塗り込むように指を滑らせ、その最奥へと指を差し入れた。
「ッ……!」
レオネは息を詰め顔をそらし耐える。
「あぁ……レオネの中、柔らかいなぁ」
ジャンは指を中で動かしオイルを塗り込める。そしてジャンはすぐに指を二本に増やしてきた。
「んんっ!」
普段、指一本しか入れてないそこにいきなり増やされた倍の質量。痛みと恐怖にレオネは声にならない悲鳴をあげた。
「あれ? ……レオネって、もしかして処女なの⁉」
ジャンが嬉しそうに言ってくる。レオネは顔を背けたまま無反応を決め込んだ。
(男に何が処女だっ。バカバカしい!)
はらわたが煮えくり返りそうなほど怒りを感じる。
「は、ははっ! 凄いや! ぼ、僕があのレオネ・ブランディーニの処女を貰うのか!」
ジャンがレオネのそこを二本の指で乱暴に掻き回しながら言う。
「レオネは海亀亭であいつと何もなかったって言ってたけど、ちょっと心配だったんだ。でも本当に何もしてなかったんだね!」
レオネは例のタブロイド紙に載った事を言っているのだと思ったが……。
「僕はね……、あの夜ずっとレオネを見てたよ。いや、あの夜だけじゃない。レオネのことずーっと見てた」
ジャンはレオネの股から指を引き抜くと、顔を背けているレオネの頭を両手で持ち無理やり自分のほうへ向かせた。普段キョロキョロさせている目でレオネを見つめて言う。
「君は男に興味ないって思ってたから、娼婦を買って君を誘ったんだ。上手く行けば君が娼婦を抱く所を見られると思って」
レオネの脳裏に海亀亭にいた長髪の野暮ったい男が浮かんだ。
(……こいつ、あの時の!)
よく見れば背恰好が同じくらいな気がする。
「なのに君は僕の誘いを断ってあのジェラルド・バラルディと夜中まで飲んで、終いにはそいつと同じ部屋に泊まったんだ。ショックだったよ。男もイケただなんてさ。だから次会った時は真正面から一緒に飲もうって誘ったんだ。断られたけど髪を切ったら君の好みになるって言われて……」
確かジェラルドとの縁談が決まってカルロに会いに行った日、男には髪を切った方がいいと言った。それはあくまでアドバイスでありレオネは好みを言ったわけではない。
「だからその通りにして毎日海亀亭に通ってたらさ、ある日新聞記者が話しかけてきたんだ。君が結婚するから情報が欲しいって。僕はあの夜、君が男と同じ部屋に泊まった事を話した。そしたら記者が持ってた結婚相手の写真がその男だったんだ! 君があの男と結婚なんてさ……。でもさ、これは神さまが与えてくれたチャンスだと思ったよ」
レオネは驚いて目を見開いた。
(タブロイド紙の情報の根源はこいつだったのか……!)
「ああ、レオネ。僕は本当幸運の持ち主だよ。君の結婚はショックだったけど、お蔭で君がこの屋敷に来る前にここに入ることができた。それにさ、あのジェラルド・バラルディは君を愛してないよね!」
(こいつ本当に腹が立つ……)
レオネはジャンを睨んだ。ジェラルドに抱かれてないと言うレオネの傷を無遠慮に踏みつけてくる。
「だって事実だろう? レオネはこんなに男を誘う顔と身体をしているのに最後までしないなんて。ここでも寝室は別だし。あいつは君に関心がないんだよ」
ジャンはレオネの顔に当てていた手を滑らせ、両脇から胸、脇腹へかけて撫でていく。腹立たしさと恐怖と気持ち悪さで鳥肌が立つ。
「大丈夫だよ。レオネ。これからは僕が慰めてあげる。辛くなったら二人で楽しもうよ。ぼ、僕は毎日でもいいよ……」
鳥肌で立ち上がった両方の乳首をジャンが両手親指で潰し転がす。
「んーっ!」
強烈な不快感にレオネは抗議の唸り声をあげる。
「ああ、君って色が白いからここのピンク色がよく見えて本当にいやらしいね。しかもキスの痕もすぐ付いちゃうし」
ジャンがレオネの胸を弄り回しながら周辺の肌を舐めて吸い上げる。
(嫌だ、嫌だ、嫌だ!!)
レオネは顔をそらし目を堅く閉じて耐える。
「ああ、もうたまんないなぁ……」
ジャンは息を荒くして自身の前をくつろげると固くなったそれを取り出した。そしてレオネの足の間にある柔らかく横たわるモノと一緒に握り込む。
「レオネ、緊張してる?」
レオネのそれが勃起してないことを残念そうに言う。恐怖と不快感しかないのだから勃つわけが無い。
ジャンのモノはしっかり固くなっていたが、縮こまっているレオネのモノと対しても変わらないくらいの大きさだった。
ジャンはその二本をまとめて激しく扱き始めた。
「ハァ、ハァ、ああレオネ……レオネのペニスかわいいなぁ……」
レオネは屈辱感と気持ち悪さで気を失いそうだった。
「ああっ、レオネっ、ああイイ……」
(名前を呼ぶなっ、気持ち悪い!)
ジャンの手が早くなり絶頂へと上り詰めようとしている。激しい手の動きに痛みすら感じてレオネ自身は増々萎縮していく。
「あっ、レオネ! イクっ!」
ジャンがビクビクと身体を震わせる吐精した。レオネの腹にジャンの精液が垂れる。
「ハァ、ハァ……ああ、すごい……エロティックだなぁ」
自身の精液で汚れたレオネの腹を見てジャンが満足そうに言う。
「ああ、レオネ……。そんな顔しないで。大丈夫だよ。今度はちゃんとレオネの中で出してあげるから。ぼ、僕レオネが相手なら二回くらい全然イケるよ」
顔をそらし精液をかけられた気持ち悪さに耐える。ジャンはレオネのむき出しの脇をぬろぬろと舐めはじめた。さらに股間のモノを扱きながらレオネの折り曲げて拘束している左太腿にも吸い付き鬱血の痕を残していく。
「ああ、もう君に、種付出来そうだよ……」
途轍もなくに気持ち悪い言い方をされ、レオネはゾッとした。
ジャンは上体を起こし、レオネの脚の間に自身のペニスを押し当てた。そしてレオネの尻の合間をオイルの滑りを使ってヌルヌルと撫でる。
「んはぁ、凄い、ついに入っちゃうよ? あのレオネ・ブランディーニの処女穴に……!」
ジャンは興奮してギラついた目でレオネを見ている。
(……ジェラルド、ジェラルド、ジェラルド!)
レオネは愛しい人の名を心の中で叫ぶ。中を汚される恐怖で涙が溢れてくる。
その時だった。遠くで微かにレオネの名を呼ぶ声がした。
(ロランド!)
ロランドがレオネを探しに来ている。このチャンスは絶対に逃せない。
「んーーっ!んんんんーっ!!」
レオネはできる限り大きく唸り声をあげ、縛られた腕を強く揺すった。ガタガタと小屋が鳴り始める。
「わ、レオネ!」
簡素な作りの小屋は大きく軋み揺れ始める。天井から下げられたランプが大きく揺れ、影が踊る。
想像以上の力にジャンがレオネの腕を抑えて止めようとするが、今度は脚を大きく揺らす。
小屋の外に足音が近づいてきた。
「レオネ⁉ そこにいるのか⁉」
「んーーっ!!」
ロランドの呼びかけにレオネが唸り声で返事をした。
「クソッ」
ジャンは小さくそう呟くとレオネの身体から離れた。
外からはロランドが出入り戸を叩く。
「レオネ! 他に誰かいるのか⁉ なんで開かない!」
足音からロランドは小屋の周辺を見て回っているのが分かった。その間にジャンは小屋内にあった移植ゴテを手に取った。先端が尖ったそれを構える。
レオネはゾッとした。ジャンはあれでロランドに切り付けるつもりなのだ。
「んーっ! んーっ!」
バンッ! と出入り戸が蹴破られ外の眩しい光が差し込む。
「レオネっ!」
「んーー!」
レオネは唸りながら首を振った。
その瞬間、ジャンが移植ゴテでロランドに襲いかかった。
ガキンッ!!
金属同士がぶつかる激しい音がした。
「うあっ!」
ジャンが声をあげる。
ロランドの手にはスコップが握られていた。小屋の脇にあった大きな鉄製のものだ。ロランドはそのスコップを振り回しあっという間にジャンの手から移植ゴテを振り払った。
「ひぃっ!」
悲鳴をあげて小屋から逃げるジャンにロランドが背中から蹴りを入れる。
「待て! 逃げるなっ!」
レオネの視界から二人の姿が見えなくなり、小屋の外から争う音と声だけが聞こえる。
「大人しくしろ!」
「クソッ! 離せ!」
ロランドが制圧したようだがレオネはロランドに何かあったらと思うと怖くてたまらなかった。
「ドナート! こっちだ!」
ロランドが叫ぶ。
「これは一体……!」
「これでこいつを縛って!」
「は、はいっ!」
会話にドナートが加わり二人がかりでジャンを取りさえたことが分かり、レオネは少しだけ安心した。
「レオネ!」
ジャンをドナートに託したらしいロランドが小屋に駆け込んできた。
「……っ!」
レオネの惨状を目の当たりにして絶句する。
一瞬の硬直の後、すぐにレオネに駆け寄り口を塞ぐ布を外してくれた。
「もう大丈夫だ。今解くからっ!」
「……ロランドは、怪我してないですか?」
口枷を外されすぐさま聞いた。
「僕はなんともない。ドナートもだ。あいつは腕を縛ってドナートが抑えてるから」
「……良かった」
腕を拘束を外しつつロランドが息を詰まらせる。
腕が自由になりレオネは上体を起こし自身の身体を見た。
「っ……!」
己の惨状に言葉が出ない。
肌のそこら中に鬱血の痕がつき、腹には精液が飛び散っている。ロランドは何も言わず両脚の拘束も解いてくへた。
「……ありがとう」
レオネは小さく礼を言うとすぐさま立ち上がり小屋の外に向う。一歩踏み出してすぐによろめいて、地面に手をついた。まだ盛られた薬が抜けていないようだ。
「レオネ! ちょっと待って」
ロランドが止めるのも聞かずレオネは外にある井戸に向かった。
「レオネ様っ!」
ほぼ裸のまま出てきたレオネに驚きドナートが悲鳴に近い叫び声を上げる。
レオネは井戸のポンプで水を汲み上げ、勢いよく出る冷たい真水でバシャバシャと身体を洗った。
(汚い、汚い、汚い!)
男の精液や唾液が肌に付いていると思うと洗っても洗っても汚い気がする。
「貴様っ! レオネ様になんてことを!」
ジャンを拘束していたドナートが怒鳴る。園芸用の縄でぐるぐるに縛られたジャンがフハハと笑った。
「だ、だって、だってさ、レオネ毎晩独りでしてたから、か、可哀想だと思って、僕が相手してあげたんだっ」
「下品なことを申すなっ!」
ドナートがさらに怒りの声を張り上げる。しかしジャンは気にすること無く話し続けた。
「ほ、本当だよ。だって聞いてたもの。床下から」
その発言にレオネは硬直した。ドナートやロランドも息を詰まらせる。
「な、なんだって……?」
ロランドが聞き返す。
「ま、毎晩じゃないけどね。レ、レオネって凄く……色っぽい声出ちゃうんだ。後ろも自分で弄ってるんだろ?」
カッと頭に血が登った。レオネは桶を持って立ち上がりジャンに近づいた。
「それでいつもジェラルド、ジェラルドって呼んじゃってさ」
「黙れっ!」
ぺらぺらと喋るジャンに渾身の力を込めて桶を叩きつけた。
「ガッハッ……!」
鉄枠が外れた桶がバラバラになる。手には取っ手だけが残りそれもレオネはジャンに投げつけた。ジャンは白目をむいて気を失った。
レオネが振り向くと、騒ぎを聞きつけてソニアとマルタも来ていた。
「レ、レオネ様……」
ソニアが泣きそうな顔で呟く。
身体に辱めの痕が残るほぼ裸の状態で、屋敷の皆が自分を見ている。さらに夜な夜なジェラルドを想って自身を慰めていた事までバラされてレオネはもう居た堪れなくなった。
ソニアの横をすり抜け屋敷へ戻る。もはや隠すほうが恥ずかしいような気がして裸と裸足で堂々と歩いて行った。
「レオネっ! 待って! ドナート、そいつは任せる!」
ロランドがレオネを追いかけつつドナートに指示する。
「承知致しました! マルタ、警察に電話を。サイレンは鳴らさずに来てもらってください」
「は、はい! ただいま!」
ロランドがジャケットを脱ぎレオネの肩に掛けようとした。
「いいですよ。汚れてしまいます」
レオネが断る。
「そんなのいいよ」
「いえ、もう……今さらですから。私は女では無いですし」
だいぶ薬も抜けて来たのか淡々とした足取りで淡々と話す。ロランドは戸惑ったように言葉を詰まらせる。
「ソニア! お前はこっちだ! すぐ風呂の準備を! ゲストルームにだ!」
ロランドがソニアを呼ぶ。
「は、はいっ!」
ソニアはレオネを追い越すように屋敷へ走って行った。
裸足のまま部屋へと入るとソニアが風呂を準備してくれていた。
「レオネ、誰か……介助は必要? ソニアか、それともマルタが良ければ呼んでくるよ」
ロランドが心配そうに言ってきた。ロランドの背後で涙目のソニアがこくこくと頷く。
「いえ……一人で大丈夫です……」
レオネはそう言ってバスルームに入った。
「カギはかけないでくれよ!」
ドアの向こうからロランドが付け足す。レオネは「はい」と小さく返事をした。
蛇口をひねりシャワーを出す。独りになり温かいお湯に包まれると起こったことがブワッと蘇ってきた。
「あ……あぁ……」
堪えきれない嗚咽が漏れる。
備え付けられている石鹸を手に取ると直接塗り付けるようにがむしゃらに身体を洗った。股の間に手を入れると塗り付けられたオイルが残っていた。悔しくて気持ち悪くて、いくら洗っても綺麗になった気がしない。
ボタボタと涙が溢れ、堪えきれない感情が爆発した。
「うっ……うっ……あ…ああぁぁぁっ!」
レオネはシャワーに打たれながらバスルームにうずくまりしばらく泣き叫んでいた。
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