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電話2

 ホテルで調べてもらうと、一番早い船で翌朝九時出港。どうあがいてもそれまで待つ他無い。  とりあえずチェックインした部屋に入り、ウーゴに何があったか電話で聞いたままを話した。レオネにあったことを口に出すことも辛かった。話を聞いたウーゴは「なんて卑劣なっ!」と怒りをあらわにし、ジェラルドが帰ることを止めなかった。  ルームサービスで食事を取りつつ、仕事の内容について時間の許す限り打ち合わせる。『現地での判断を求められたら会長権限と同様にウーゴが判断して良い』とし、一日一回電話で状況を確認し相談することにした。  翌朝、ジェラルドは予定通りロヴァティア王国ラヴェンタ行の船に乗った。この三日間の航海はこれまでで一番辛いものとなった。早くレオネの元に帰りたいのにただ三日間じっと過ごさねばならないからだ。最新の飛行船ならもっと早く到着する。ジェラルドは飛行船港の必要性を痛感した。  三日後、船がラヴェンタに到着し、ジェラルドは汽車で王都サルヴィへ五時間かけて戻った。 「父さん!」  駅の広場でロランドが手を上げていた。  出港前の朝、ホテルから商会に電話をし、ロランドに駅まで迎えに来るように伝えていた。何があったのか詳細が知りたかったからだ。  車に乗り込むとロランドが尋ねてきた。 「で、何を話せばよいのですか」 「全部だ」  ロランドは眉間をよせて溜息をつき、経緯を話し始めた。  あの日。ロランドは三時にお茶をしに行くと伝えてあったが、時間になっても庭の手伝いから戻らないレオネを不審に思いドナートと二人で庭を捜索。園芸小屋からガタガタと音がしておりレオネらしき声もした。誰かに囚われていると予測したロランドはスコップ構えてドアを蹴破り中に突入。中からはジャンが襲いかかってきたが無事制圧。 「……あとはドナートと一緒にジャンを縛って……レオネを助けました。今ジャンは警察署です」  ロランドは淡々と説明した。  ジェラルドは聞きたくないけど聞かなければならないことを聞いた。 「……レオネは、どういう状態だったんだ?」 「……」  ロランドが黙り固まる。 「レオネは、電話口で『大丈夫です。大した事じゃない』って言い張ってたんだ」 「……っ!」  ロランドが息を詰まらせる。 「……ロランド、把握しておきたいんだ」  ジェラルドがそう言うとロランドがポツポツと言い始めた。 「……小屋に入った時、レオネはほとんど裸で拘束されてました。両腕は頭上で小屋の梁に縛られて、脚も固定されてて……」  ジェラルドは奥歯をギリッと噛み締めた。 「正直、どこまでされたのかはわかりません。レオネもいいませんし、僕もそんなの聞けない」  話せと言ったのは自分なのにジェラルドは耳を塞ぎたくなった。 「拘束を外したらレオネはすぐに井戸に向かって身体を必死に洗ってました。それからソニアと二人でゲストルームのバスルームに連れて行ったんですが……、だいぶ長い時間、中で泣いてて……」 (全然大丈夫では無いじゃないかっ……!)  ジェラルドは眼鏡を外し拳を眉間に当てて大きく息を吐き出した。 「父さん、あと、あいつレオネの寝室の床下に潜り込んでたみたいなんです……」 「はぁ⁉」  思わず顔を上げてロランドを見る。ロランドは辛そうな表情で話を続けた。 「それで、その……レオネの自慰を聞いてたらしくて、それを僕達がいる前でレオネに言ったんです。凄く、下品な言い方で……」  ジェラルドは絶句した。レオネの部屋に床下とは言え、変質者の侵入を許してしまっていたなんて。  男なら誰でも自身を慰める行為はするものだ。だが、果たして貴族のレオネがそれを他人に聞かれ、さらに人前で言いふらされたとはどれほどの屈辱を感じているだろうか。  やがて車はバラルディ家本邸に入った。  ジェラルドはロランドに向かって心を込めて礼を言った。 「ロランド、レオネを助けてくれてありがとう。それに冷静な判断でお前自身も怪我なく犯人を拘束したこと、父親として誇りに思うよ。……さすが私とエレナの息子だ」 「父さん……」  車がロータリーに入り停車する。 「手間を取らせたな。あとは私が何とかする」  ジェラルドは車を降りながら、ロランドにそう宣言した。

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