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[43] 夢現

「ジェラルド様、お車が着きました」  ドナートが書斎にいるジェラルドを呼びに来た。 「ああ、少し待たせておいてくれ」  ジェラルドは手荷物を確認しながらドナートに言った。 (現金と手袋は必要だ。あとは……)  ジェラルドの指示にドナートは「かしこまりました」と返事をしたが直ぐには立ち去らない。不審に思ってジェラルドが顔を上げる。 「……なんだ?」  ドナートは躊躇いながら口を開いた。 「昨日お戻りになったばかりで、何も今日直ぐに行かなくてもよろしいのでは? ジェラルド様が冷静に話せるとは思えません」 「はっ! 冷静に話す必要は無いと思うね」  ジェラルドは鼻で笑って言う。 「ジェラルド様……レオネ様が悲しむようなことはなさらないでください」  ドナートが心配そうに言う。 「もちろんそのつもりだ」  ジェラルドは強く断言した。そもそもレオネに言うつもりも無い。  そろそろ行こうかと思いジェラルドはドナートに言った。 「レオネがあと二時間経っても起きてこなかったらマルタに起こさせてくれ。それから食事を。昨日はクッキーしか食べてない」 「承知致しました。それでも少しお召し上がりになったのですね。この数日間ほとんど何もお召し上がりになりませんでしたので……」  ドナートはホッとしたように言った。  レオネは心配な事があると食事を取らなくなることはジェラルドにも覚えがあった。 「もう普通に食べると思うぞ。だが消化の良いものを頼む」  昨日はあの後ぐったりしているレオネをなんとか起こし風呂に入れた。  中に出してしまったものを出さねばならないと伝えたら、レオネは『このまま入れておきたい』などと可愛い事を言ってきてジェラルドを悶絶させた。そのままだと腹を下す事を説明すると、とても不満そうな顔をしつつも従ってくれた。  バスルームでレオネの中から自身が出したものを掻き出していると、その刺激にレオネが兆してしまい、ジェラルドもそれに当てられて結局その場で三回目。ほとんど気絶するような状況になってしまったレオネをなんとか担いてベッドまで戻った。  レオネが初めてなのにもかかわらず、歯止めが効かず盛ってしまった事にジェラルドは反省している。だが、中年のジェラルドをここまで燃え上がらせるレオネの色気は凄まじかった。  ベッドでレオネを背中から抱っこし、いつの間にか書斎に置かれていたクッキーを食べさせた。『ベッドで食べるなんて行儀が悪い』と言いつつも雛鳥のように素直に口を開くレオネが実に可愛くて可愛くて。しかしレオネは三個ほど食べて寝落ちてしまった。そして現在午前九時。今だに眠っているようだが。  ジェラルドが鞄を持って書斎から出ようとした時。寝室からバタバタと音がし、バンッと勢いよくドアが開いた。 「ジェラルドッ!」  ローブを肩に引っ掛けただけのような寝乱れたレオネが飛び出してきた。ドナートはギョッとして視線を反らす。レオネの手首や首筋には昨日ジェラルドがつけた紐や噛み痕がくっきり付いているせいもあるのだろう。あとでドナートから咎められそうだ。 「おはよう、レオネ。どうした?」  ジェラルドが優しく呼びかけて腕を広げる。レオネは半泣きでジェラルドの胸に飛び込んできた。 「起きたら、ジェラルドがいなくて……っ」  レオネの背中をさすりながらドナートに目配せする。どうやらレオネにはジェラルドしか見えていないようだ。ドナートはスッと頭を下げて退出していった。 「今日はどうしても行かなくてはいけない案件があると夕べ伝えたのだが、寝落ちてたかな」  レオネを抱き締めながら一旦ソファに座る。  レオネはジェラルドの肩に埋めていた顔を上げてジェラルドを見た。 「……今、思い出しました」  恥ずかしそうに赤い顔でジェラルドを見る。ジェラルドはレオネの髪を手櫛で梳きながら言った。 「起こしたら可哀そうだなと思ったけど、起こすべきだったな。すまない」  レオネは再びジェラルドの胸に顔を埋めてきた。 「全部、夢なんじゃないかと……夢か現実かよく分からなくなって……怖くて……」  ジェラルドはフッと笑いながらレオネの背中をさする。 「夢じゃないよ。レオネ」  呼びかけるとレオネは顔をあげてジェラルドを見つめてくる。長いまつ毛に縁取られた紺碧の切れ長の瞳だ。まつ毛と頬が濡ている。 「愛してるよ、レオネ」  そう言って唇を合わせる。昨日何度も味わった柔らかな感触。だが飽きることは無い。レオネはうっとりとした表情でジェラルドのキスを受け入れていた。  キスの合間にローブの合わせからレオネの太腿に手を伸ばす。柔らかな皮膚に覆われたみっちりとした張りのある筋肉の感触を楽しむ。 「はぁ……行くのやめようかな」  ジェラルドはそう呟いた。この可愛い恋人、もとい妻から離れ難い。だがそれを聞いてレオネが腕を突っ張りジェラルドから赤くなった顔を離して言う。 「ご、ごめんなさいっ。私今ちょっとおかしいんです。これ以上ジェラルドの邪魔をしたら自分が許せなくなります。お仕事、行ってきてください!」  開いたローブの合わせから乳首の片方がちらりと見えた。散々昨日舐めねぶられたので紅く主張している。首筋や胸周りにはジェラルドが大袈裟に付けて回ったキスマークと歯型。噛む力はそれほど強くなかったが、やはりレオネの柔肌にはくっきり残ったようだ。 (おかしいままでも構わないんだがな) 「ジェラルド?」  レオネの身体をいやらしい目で見ていたジェラルドにレオネが声を掛けた。 「ん……、わかった。じゃあ行ってくるよ。昼には帰るから」  ため息交じりにそう言ってジェラルドは立ち上がった。レオネもドアまでついてきた。 「ジェラルド……行ってらっしゃい」  そう言われて既視感を感じた。初めてレオネと過ごした日の朝もレオネはこうしてジェラルドを見送ってくれた。あの時はそこから約一年間離れる事になったが今度は違う。 (懸念事項は早々に片付けて午後はレオネとゆっくりしよう) 「二時間で帰るよ」  そう言ってジェラルドはチュッとレオネの唇に、軽くキスをすると部屋を出た。

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