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ひと騒動のマリンブルー9

僕と颯太は小室くんと轟くんの斜め前、清水くんは正面、松村くんは少し離れた位置。 自分が冷静でないことは颯太も十分理解しているから、唇を引きむすんで渋々頷いた。 清水くんは改めて二人を見る。 轟くんは先の言葉通り小室くんを守るかのように、彼の少し前に立っている。 「回り道しても仕方ないから率直に聞くな。どうして間宮が恋人だと知っているのに、そういうことをしたんだ?」 轟くんは少し俯いて、唇を噛む。それでも意を決したように、息を吸った。 「……俺たち実は、付き合ってるんだ」 轟くんの口から出た言葉は清水くんの質問とは直結しないもの。 二人が付き合っていると聞いても案外驚かない自分がいた。 二人の様子や距離感は幼馴染というよりは恋人の方が合っている気がする。僕と颯太の関係に近いものを無意識に感じていたのかもしれない。 「この関係は誰にも言ってないから、二人きりのときしかそういう話はしなくてさ……。恥ずかしい話、胸で感じるかって話題が凛との間に出た。それで、その……」 轟くんは言いにくそうに言葉を止めてしまう。 「……おれが、悪いんだ」 そかで初めて小室くんが声を出す。 その声はいつものゆったりしたものではないし、顔も強張っている。マイペースな感じがどこにもない。何か恐れているよう。 「……恥ずかしくなって意地はって……試すなら、本当に感じるか見てからだって……言ったから……」 「それで、渡来に?」 二人はこくりと頷く。 小室くんはぎゅっと手を握りしめる。それでもその手は震えてしまっている。 何かあるのだということは誰から見ても明らか。確かに怖かったけど、許したいという気持ちが湧いてくる。 こんなの甘いと言われてしまうだろうか。 「渡来を怖がらせるつもりはなくて、すぐに終わらせるつもりだった……。だけど理由はどうあれやったことは最低だった。本当にごめん、渡来」 「ごめん……渡来、くん……」 二人揃って頭を下げられる。もう恐怖はなくて、震えは収まっている。 僕は颯太の後ろからその隣に並ぶ。 颯太は心配そうに僕を見るけど、僕の表情を見て少し微笑んだ。その瞳は僕が許すなら俺も従うと語っている。 「顔上げて、二人とも」 二人は顔を上げる。その顔はまだ険しい。 波の音がやけに鮮明に耳に響いた。それを背景に僕は息を吸う。 「……一つだけ質問させて。僕や颯太と仲良くしたいって二人の言葉も、全部このため……」 「違うよ、違う。渡来くん、違う……! その話題はさっき出ただけで、それで、そのね……」 僕の質問を遮って小室くんが目を見開く。でも言葉がうまく続かず、忙しなく視線が動いた。何か伝えたい気持ちは痛いほど伝わってきた。 それに僕は特によくわかる。僕も喋るのは苦手で、焦れば焦るほど言葉が出ないことはよくあるから。

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