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ひと騒動のマリンブルー8
「亜樹、歩けそう?」
優しく聞かれるから素直に首を横に振った。迷惑を心配する心はあったけど、せめて震えが収まるまでは。
「じゃあ二人は先に清水くんと松村くんのところ行ってて」
「……わかった」
二人の足音が遠のいていく。その音に図らずも安心してしまった自分自身が少し悲しい。
颯太に回した腕に力を込めて肩に顔を埋める。
「怖かったね。もう大丈夫だよ」
「……颯太、颯太」
「うん。亜樹、大丈夫、大丈夫……」
しばらく抱きしめてもらって、背中を撫でてもらって。そうすると徐々に震えが収まってくる。颯太の体温や爽やかな匂いが、体中に浸透していく。
班行動の進行をこれ以上妨げるのは申し訳ないからちょこっと顔を上げた。
「亜樹、もう平気?」
「うん……」
「わかった」
颯太は唇に優しくキスをくれる。
ほわって幸福が生まれた。何気ない視線でもすぐ察してくれるのが本当にありがたい。
それで満足したから僕は体を離す。颯太はすかさず僕の腕を自分のに回させた。
「不安なら俺の後ろに隠れて」
「……うん」
小室くんと轟くんがなんでこんなことをしたのか。何か理由があったと信じたい。二人が単なる酷い人には思えないし、思いたくない。
僕は颯太にひっついて歩き出した。
四人は僕が先ほどまでいた場所にいる。松村くんの手には飲み物が六本握られているから、時間がかかった理由はおそらくこれだ。
小室くんと轟くんは唇を引きむすんで少し俯いている。
「おー! 間宮、渡来!」
松村くんが近づく僕らに気づいて手を振ろうとする。飲み物が重くてすぐに諦めていた。
「……何があったんだよ。二人とも何も言わないんだ」
清水くんは僕と颯太の様子を見てなんとなく察したみたい。声はいつもより抑えられている。
松村くんも清水くんの変化を感じたようで、すぐに真面目な顔つきになった。とりあえず黙っておこうといった顔。
「なんて言ったらいいか……。まあ二人が性的ないたずらをした、って感じかな」
「……凛は悪くないんだ。全部俺が原因で……」
「そういうのいいから」
「……っ」
清水くんと松村くんの驚く顔の前で、轟くんが小室くんをかばう。それに颯太が苛ついた声をあげた。
颯太も颯太で僕が感じたのと同じ悲しさを抱いているのかもしれない。
「颯太……」
僕のために怒ってくれるのは嬉しい。けれど怒りに真実が塗り潰されてしまったら、それが一番悲しいことだ。
僕が颯太を見上げると、やりきれない顔をする。だけど小さく首を横に振った。
「俺が聞くってことでいいか? 間宮」
「……わかった」
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