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ひと騒動のマリンブルー11
十秒くらい小室くんは僕の手を握りしめていた。長く長く余韻に浸るかのように。
それから少し恥ずかしそうにして僕の手を離す。
そのあと訪れるのは、沈黙。
とりあえず円満解決だ。僕が二人を許して、二人は喜んで。でもそこから繋がらない。
はい、解決。じゃあいつも通り話そう!
などということはなかなかできないわけで。そろそろお腹が空く頃だけど、昼食の場所へ向かうきっかけがない。
もちろん僕が何かを仕切るなんてできるはずもないから、ちらりと颯太を見た。
……と、
「うおぉっ!!」
ゴトゴト音を立てながら松村くんが叫びをあげる。見れば六本の飲み物を誤って地面に落としてしまったようだ。
一人で六本も持っているのだから無理もない。
「何やってんだよ、茂……」
「だってよー重たいんだよ! なんでオレだけで持ってんの!?」
「お前が一人で選ぶからって言ったんだろ」
清水くんは呆れながら拾うのを手伝う。そしてその種類を見て松村くんを睨んだ。その視線に松村くんはニヤリと笑う。
「ふっふっふ……。気づいたか、諸君。これは全て違う飲み物なのだ!」
そしていつぞやの口調で言い放った。
松村くんが腕で抱える飲み物を見てみる。
シークワーサーのジュース、さんぴん茶、コーラ、麦茶、カルピス、レモンティー。
シークワーサーとさんぴん茶は味の想像がつかない。
「オレはコーラ!」
「あっ、おい……!」
早い者勝ち、買ってきた者勝ち、とでも言うように松村くんはコーラを高く掲げた。
平等にすべきとばかりに清水くんは慌てる。
「じゃあ俺は麦茶かな。亜樹はカルピスでいい?」
「うん」
しかし颯太が松村くんに続いて、僕も笑顔で頷いて。
「おれはレモンティーにする〜」
「俺はシークワーサー」
「じゃあ蓮がさんぴんな」
「……わかったよ」
清水くんが深く深く溜め息を吐いて、最後に松村くんを一睨み。でも結局は仕方ないなって笑っていた。
「さって飯飯!」
松村くんが腹を叩いて歩き出す。みんなそれは考えていたようで、ぞろぞろついていく。
その時、松村くんが振り返って、ニカッと歯を見せた。
「間宮も渡来も、いい話し相手ができてよかったな!」
僕と颯太は顔を見合わせ、それからチラッと轟くんと小室くんを見る。
そして松村くんの気遣いに笑顔で頷いた。
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