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桃色流星群8
体と頭を丁寧に洗って、颯太と隣同士で湯船に浸かる。
変なことをしないで二人静かにくっついているというのも心地いい時間だ。
結局は二人一緒なら何でもいいのだろうけれど、僕らって。そしてそれが一番幸せなこと。
のぼせる直前くらいまで温まって、風呂場から脱衣所に出る。
体を拭いて、頭を拭きあいっこして、下着を身につけて、服を着て。そこまではよかった。
次にするのは指輪をタオルから出して、確認すること。
「……ない」
「亜樹?」
「そ、うた、どうしよう……やだ……」
「どうしたの」
わざわざ棚の奥に置いたタオルは漁られたようなあとがあり、嫌な予感通り、そこに指輪はない。
あっという間に目が潤む。ショックが大きくてうまく話すこともできない。その様子に颯太は不穏な顔で僕を見る。
「や……ごめ、ない……指輪……」
「指輪がなくなったの?」
「ごめん、なさい……」
僕はポロポロ涙を零して颯太に抱きつく。
どうしよう。せっかく颯太が誕生日にくれたものなのに。僕と颯太の未来を象徴するものなのに。何より、颯太が、僕のために、選んでくれた、ものなのに。
調子に乗って修学旅行に持ってきたり、ケースにしまわず身につけたりしたから。
「亜樹……泣かないで。亜樹は悪くない。誰かが持っていったんだと思う」
「……じゃあ、もう……」
颯太の頭を撫でる手に顔を上げる。でも言われた言葉にまたもや涙が溢れる。
「違う違う。亜樹のだけ持っていくのはおかしいから、相手はもしかしたらどこかに捨てたかもしれない。だから探しに行こう」
「……それって、嫌がらせ……?」
「……その可能性が高いかな、って。単に気に入って盗みたいなら俺の指輪の方がすぐ目に付くし」
「……僕、何かしたのかな……」
「そういう人って何もしなくても不満を抱くものだよ。それかもう一つの可能性は亜樹のことが大好きな人の仕業とかね」
「……え?」
「亜樹が好きすぎて亜樹のものを……って」
嫌がらせは嫌だ。僕は凡人で影も薄いから誰かに恨まれるようなことをした覚えはないのに。僕を知る人なんて少なそうなのに。
でもそれ以上に颯太の二つめの予想は、悲しくて。
だってそれが本当なら、あり得ないとは思うけど、もし万が一にも本当なら、もう二度と指輪は戻ってこないということだ。
颯太はいたずらっぽく笑っているから、きっと僕を照れさせて元気づけるつもりなんだろうけれど……。
「わー! 亜樹、泣かないで! ごめん、きっと前者の方が可能性あるから。探しに行くよ」
「……ん」
颯太にぎゅうっと抱きしめられて少し元気が出る。
ぐしっと涙を拭って二人で脱衣所を出た。
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